「あ、征くん、ちょっと見て行ってもいい?」

「ああ」

通りかかった店のマネキンが着ていたワンピースが可愛かったので、つい目がいってしまった。

「このワンピース?」

「うん、凄く可愛い」

「いいね。似合うと思うよ」

赤司は七海の手を引いて店内に入ると、ラックに掛かっていた別のワンピースを取って七海に見せた。

「これはどうかな?君が持ってるアイボリーのニットカーディガンにもよく合うと思うけど」

「え、覚えてるの?」

「当然だ」

何故か自慢げに微笑まれてしまった。
もしかしなくても、七海のワードローブまで把握してるのか。さすがだ。

女性店員が物凄い笑顔でにこにこしながら二人を見ている。

「どうぞ試着してみて下さい」

「え、いえ…」

「そうするといい。上映時間にはまだ余裕があるから」

赤司にやや強引に促されて試着した結果、七海が必死に止めたにも関わらず赤司はそのワンピースを買ってくれた。

財閥の御曹司ということで、同じ年頃の子供に比べてかなり金銭的に恵まれた環境にあるとは言え、赤司本人は決して浪費家ではない。
締める所はしっかり締めつつも、必要な物には出費を惜しまないタイプで、彼の金銭感覚は至って正常だ。
その彼に、『投資する価値がある』と認識されていることは嬉しいが、だからと言って彼の優しさに甘えて簡単に何でも買って貰うわけにはいかない。
七海は気を引き締めた。

「ありがとう、征くん」

「次のデートにはそのワンピースを着ておいで」

その優しい微笑みと、デートという単語に、七海は赤くなって内心身悶えた。

この幼なじみは時々心臓に悪すぎる。



 戻る  



- ナノ -