「ねえ、外見た?もう真っ暗だよ」

職員室から用具倉庫の鍵を取って来た先輩マネージャーが言った。
夏とは言え、この時間になればさすがにもう“夜”だ。
最近は一軍も居残り練習をする生徒が増えてきたため、最終下校時刻ギリギリになる事が多い。
当然、片付けなどで付き合う事になるマネージャーもだ。

「やだなぁ…第4体育館前通らなきゃいけないのに…出たらどうしよう…」

「出る?」

「あれ?七海ちゃん知らない?」

「第4体育館、出るらしいよ、オバケ」

「オバケ?」

七海は首を傾げた。
先輩達は「そうそう!」と怖そうに顔を見合わている。

「なんかね、三軍の練習後に、体育館の灯かりがまだついててボールの音とかするんだって」

「音はするのに誰もいないの!一年のみっちゃんも聞いたらしいよ」

学校の七不思議によくあるタイプの怪談である。
七海も聞いていてちょっと怖くなった。
でも、もしかするとと思いあたる事もあった。

「あ、やば、もう行かなきゃ!」

先輩達は話すだけ話すと、コーチに確認して来る事があるからと行ってしまった。

と思ったら、何やらきゃーきゃー賑やかに話しながら一年生のマネージャーが三人揃って戻って来た。
正確には騒いでいるのは二人だけで、桃井はちょっと引き気味な様子で戸惑っているようにも見える。

「どうしたの?」

「七海ちゃん!」

一人のマネが七海の肩をガシッと掴んだ。

「もう!羨ましすぎる!!むしろいますぐ代わって!!」

「え、ええっ?」

「さっきそこで赤司様に会ったの!」

「“様”!?」

「も〜〜ほんっとにカッコイイよ赤司様!!」

「私が持ってたカゴからタオルが落ちそうになったら、咄嗟に支えてくれて!」

「そうそう!それで、『いつもありがとう。日々チームを支えてくれていることに感謝しているよ』って!!」

きゃー!と二人は手を握り合ってはしゃいだ。
七海は完全に置いてけぼりだ。
桃井と目が合うと、「そういうことなの」といった風に彼女は苦笑した。

「実際どんな感じ? 赤ちゃんのときから一緒の幼馴染みって」

「そこまでいくともう兄弟みたいなもんっていうか、恋愛より家族愛になりそうな気がするんだけど」

「確かにそれはあるかも」

七海は頷いた。

「家族愛みたいな感じは確かにあると思う。でも、兄弟みたいかって言われると全然違うというか…特別で大切な存在なのは間違いないんだけど」

「はいはい、御馳走さま〜」

ひらひらと手を振ると、その子はもう一人のマネと再び先程の出来事について熱く語り合い始めた。
自分から聞いておいてそれはないんじゃないかと七海はちょっとムッとしたが、それ以上深く追求されても照れ臭くなりそうなので丁度良かったのかもしれない。


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