マネージャーを始めてから、かなり体力がついてきた気がする。

選手とは比べものにはならないけれど、運動部のマネージャーの仕事もなかなか過酷だ。
ましてや強豪校のマネージャーともなれば尚更である。
選手に気を配る立場である自分自身が熱中症や風邪でダウンしてしまっては話にならない。
だから、七海は基礎トレをするなどして日頃から体力をつけるよう心掛けている。
やはり運動部の子には敵わないかもしれないが、それでも普通の女の子と比べれば体力があるほうだと思う。

逆に言えば、そうして自分なりに努力しなければやっていけない世界だという事だ。

女子と言えど、手際が悪かったりミスをすれば、「なにやってんだ、マネージャー!」と先輩から直ぐ様怒声が飛んでくる。
乱暴な言葉で罵倒されるわけではないのだが、異性の年長者に大きな声で注意されるというだけでかなりキツいものがある。
七海と同じ一年生のマネージャーも一人それで辞めてしまっていた。

運動部ならどこも似たようなものかもしれないが、仕事と部のやり方に慣れなければ続かない。
相性の問題もあるのだろう。

七海は今のところ問題なくマネージャーの仕事をこなしていた。
と言っても、一年生にして既に一軍で副主将にまでトントン拍子で出世した赤司とは違い、一生懸命やって何とかついていけているといった状態だが。

何人か一緒に入った一年生のマネ同士もすぐに打ち解け、お互いに仕事を教えあったり、至らない部分を指摘して貰ったりフォローして貰ったりと、良い関係を築けていた。

「七海ちゃん、今日三軍だって」

「うん、分かった。ありがとう」

先輩マネからの指示を教えてくれた桃井さつきも同じ一年生マネージャー仲間の一人だ。
彼女は青峰と幼なじみだということで、七海は自分と赤司のような関係だとばかり思っていたのだが、本人いわく、「大ちゃんはただの腐れ縁の幼なじみ!」らしい。
でもムキになって言い張るあたり、実は無意識下ではもっと別の感情があるのではないかと七海は思っている。
もちろん本人に言っても否定されるに違いない。


桃井に教えられた通り三軍が練習している体育館に行くと、丁度スリーメンが終わったところだった。

「あ、来た来た。こっちでタイム取ってくれる?」

コーチの近くにいた先輩マネージャーが七海を見つけて手招く。
しかし。

「うおぇぇえぇぇー…」

すぐ近くで上がった声にギョッとしてそっちを見ると、小柄な男子がうずくまって吐きそうになっていた。

「だ、大丈夫?」

七海は駆け寄って背中をさすってやった。

「またお前か!もういいからトイレ行ってちょっと休んでろ!」

ボールを持った三年生がそう言い、先輩マネージャーからも「こっちはいいからついててあげて」と溜め息とともに指示を受けたので、七海は少年を支えるようにして体育館を出た。


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