「すみませんでした……」

「ううん、いいよ。大丈夫?」

「はい…何とか…」

そうは言うものの、まだ顔色は良くない。
でも、トイレでひとしきり出すものを出した事で少し落ち着いたようで、水道で顔を洗ってうがいをした少年は返事をかえせるだけの余裕が出てきていた。
さっきまではまともに話す事すら出来ない状態だったのだ。

「もしかして身体弱い?」

「あまり丈夫なほうではないです…」

それではバスケ部の練習は相当キツいはずだ。
しかし、弱々しい見かけに反して、少年の目には弱気な色は見えない。
ちゃんと目標を持って努力している人間の目だ、と七海は感じた。

「同じ一年生だよね。私は七瀬七海。あなたは?」

ドリンクで水分補給させ、深く息をついた少年に尋ねる。

「黒子です。黒子テツヤといいます」

儚げというのだろうか、まるで目を離すと消えてしまいそうな印象を受けた七海は心配になった。

「僕はもう大丈夫です。ありがとうございました」

「うん、練習頑張ってね」

まだ座り込んだままだが、もう少し休めば大丈夫だろう。
何より、彼自身がまだ練習を続ける気でいるのだ。
七海は彼の側を離れてマネージャーの仕事に戻った。


先輩から仕事を引き継ぎ、そのまま三軍のサポートをしていると、まだ青い顔のまま、だがやる気に満ちた顔つきで黒子が練習に復帰したのが見えた。

「やる気はあるんだがな…」

同じように黒子を見ていたコーチが何気なく呟く。
その言葉には、努力は認めてやりたいがこれ以上はどうしようもないという苦渋に満ちていて、七海は不安になった。

確かに、努力すれば必ず報われるわけではない。
そんな単純なものではないと、まだ一年生でマネージャーの七海にも分かる。

でも、彼には何とか頑張って欲しかった。
体力の限界を越えても努力をやめない彼のその気持ちが結果に繋がる日が来て欲しかった。



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