「本当にここでよろしいのですか?」 困惑を隠せない様子で尋ねる運転手に、赤司は「ああ」と答えた。 明日からは送迎もしないでくれ、と。 校門までにはまだかなり距離がある。 この場所に車を停めさせたのには理由があった。 他の生徒の姿が近くにない今なら丁度良い。 「七海もそれでいいな?」 「うん」 七海は頷いた。 一緒に学校まで車で送って貰えるのは嬉しいが、赤司本人がそういうのだからそれでいい。 だが、困ったのは運転手だ。 彼は雇い主である赤司の父親から、学校の校門まで二人を送り届けるように厳命されていたのである。 「そういうわけには…お父上にも校門まで送り届けるようにと…」 「父は関係ない。それに毎朝そんなことをされては変に目立って笑われてしまうよ」 「そうだね」と七海も同調する。 こんな高級車で毎日校門まで送り迎えをして貰って目立たないはずがない。 噂はすぐに駆け巡り、たちまち学校の名物になってしまうだろう。 「学校ぐらい俺の自由にさせてくれ」 きっぱりと告げられたその言葉に、赤司の本心が集約されていた。 七海と赤司征十郎は幼なじみだ。 家同士、親同士も付き合いがあるため、赤ん坊の頃からずっと一緒に育ってきた。 七海は物心つく頃から既に赤司の家が相当なお金持ちの部類に入るということを理解していた。 経済格差だとか生まれの違いだとか、社会に出てから実感するはずのものを、小学校に上がる前から既に肌で感じていた。 赤司の家は特別だ。 赤司征十郎もそのように教育されてきた。 七海を側に置きたがるのは、少しでも“普通”と繋がっていたいと思う気持ちがあるからかもしれない。 七海の大好きな幼なじみは、中学生になった今では、他の同年代の男の子には想像もつかないものを背負い、戦っていた。 |