黄瀬涼太に一軍入りの通達が下りたのは、入部して僅か二週間後の事だった。
最初のテストから一軍入りした赤司達の時といい、去年から異例尽くしだ。

「これでやっと青峰っちと一緒にやれるっス!」

「青峰くん?」

「そうっス。なんせ青峰っちと一緒にやりたくて入ったんスからね、バスケ部!」

という事らしい。
バスケの練習をしている青峰を見て…というのが切っ掛けだったそうだ。
青峰の事を語る時の黄瀬の瞳は輝いていて、いつもの嘘くさい笑顔とは違い、本当に嬉しそうだった。
そうすると、彼は年相応の可愛い少年に見える。
おかしな話だが、七海は、いつか彼がそんな風に一人の女の子に対して本気で純粋な恋が出来ればいいのにと頭の片隅で思った。
余計なお世話かもしれないが、黄瀬は女性に対してもはや希望も憧れもない気がして仕方がなかったのだ。
だから、ほんのちょっとからかってみたくなった。

「まるで一目惚れした子に会いに行くみたいだね」

「アハハ、まあ、確かに一目惚れかもしれないっスね。青峰っちじゃなくて、青峰っちのバスケに、だけど」

「青峰くん自身に一目惚れだったら、私が軽く出版社にリークしてあげたのに。『カリスマモデルの想い人は同性!?お相手は同じバスケ部のA君』って感じで明日発売の雑誌に出るよ、きっと」

「ちょ、冗談キツイっス!!マジで勘弁!!」

青ざめて首をぶんぶん振って嫌がる黄瀬に、七海は声をあげて笑った。
どんな女の子とスクープされても焦る様子もなく、しれっとした態度で「彼女とはいい友達っスよ」と言ってのける彼も、さすがにホモ呼ばわりされるのはキツイようだ。

「じゃあ、そういうわけで明日から黄瀬くんは1軍だから。桃井さつきちゃんって覚えてるでしょ?」

「マネの中で一番胸が大きい可愛い子っスね」

「その覚え方はどうかと思うけど、うん、その子。その子が迎えに来て一軍の体育館まで案内してくれる事になってるから。その後は軽く自己紹介して練習、って感じかな」

「七海っちが案内してくれるんじゃないんスね。残念」

「うん、私も残念。私は今週ずっと二軍担当だから」

「あー、ローテーションかぁ。でもそれならこれから一軍に来る事もあるって事っスよね。俺、待ってるっス!」

「うん。その時はよろしく」

笑って握手を交わし、黄瀬はこの日で最後の二軍としての練習メニューに入っていった。



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