翌日のお昼休みの事だ。 職員室に呼ばれて戻って来た桃井が、「黒子くんのユニ届いたよ」と七海に教えに来たのは。 「おおー!やっと来たんだ!これで正真正銘レギュラーだね!」 「七海ちゃんがキラキラしてる…」 まだビニールに入ったままの真新しいユニフォームを両手で掲げて感動に浸っていると、桃井が「そういえば」と続けた。 「黄瀬くん、だっけ?二軍から来る子」 「そう、黄瀬涼太くん」 「黒子くんにあの子の教育係をやって貰おうって話になってて」 となると、一軍のコーチと主将、副主将あたりで話し合った結果だろう。 七海はうーんと首を捻った。 「黒子くんと黄瀬くんかぁ…」 「え、何か問題ありそうな感じ?」 「そうじゃないけど、黄瀬くんってちょっとクセがあるからなぁ」 「そうなの?まだちょっとしか話してないけど、話しやすそうな感じしたけどな」 「表向きはね。明るくそつなく誰とでも話せるけど、結構人を見る目がシビアだよ。相手の実力とかを見て、自分が認めた相手にしか心を開かないタイプみたい」 「なんか…うちの一軍ってみんな個性的だよね」 「本当にね」 でも強い。 そして、赤司は、その一見個性的過ぎてバラバラなメンバーを、その特性を生かした上でまとめようとしているのだ。 七海には想像を絶する難事に思えるが、赤司ならばきっとやってのけるだろう。 桃井は放課後、ユニフォームを黒子に渡して黄瀬を迎えに行くと言っていた。 そして七海は、黄瀬が一軍に上がった事で更に絶望感が増してどんよりした二軍をシャキッとさせて練習に打ち込ませるという難事が待っている。 黄瀬の存在は二軍にとって起爆剤とはならなかった。 むしろ逆効果だ。 やっぱり才能がなければどんなに努力しても無駄なのだ、と現実を突きつけられた状態だった。 彼らの考えは正しい。 今の二軍メンバーには、もう一軍に上がれる才覚のある者はいない。 恐らく次の昇格テストでは一軍入りはゼロだろう。 七海には彼らの気持ちがよくわかる。 才能のある者と無い者との、圧倒的な違い。 生まれながらに恵まれた素質を持つ者とそうでない者との、残酷な落差。 それでも、彼らがバスケを続ける以上、立ち止まってはいられないのだ。 どうせ練習なんてしたって無駄なんだという諦めムードが漂うのをどうにかしなければいけない。 二軍の体育館に立ち込めるどんよりした空気を思って七海は溜め息をついた。 |