「黄瀬涼太なら、入部テストで二軍に配属されたよ」

赤司に聞けば、すぐにそう答えが返って来た。

「なかなか見所がありそうなプレイヤーだ。彼ならすぐに一軍に上がって来るだろう」

「そんなに?」

「ああ。まだ発展途上だが、秘めたポテンシャルは今のスタメンにも負けないものがある」

「征くんにそこまで言わせるなんてすごいね」

赤司はふと微笑み、「そっちの様子はどうだい?」と逆に尋ねてきた。
無論、新入りマネージャーのことだ。

「頑張ってるよ。まだフォローが必要な面もあるけど、一生懸命やってくれてる」

「続きそうか?」

「たぶんね。何か問題が起こらない限りは大丈夫だと思う」

赤司は「そうか」と言って机からスクールバッグを取った。
授業が終わり、これから練習に向かうところなのだ。
七海も更衣室に行くので途中までは一緒だ。

「心配してたんだよ。卒業した先輩達が抜けて人数が減ったからマネージャーの仕事も大変だろう」

「うん、でも、まあ何とか頑張るよ。さつきちゃん達もいるし」

「仲間で協力し合うのは選手もマネージャーも同じか」

「そういうこと。征くんも頑張ってね」

「ああ」

赤司と別れ、女子用の更衣室へ行こうとした時、男子更衣室から虹村主将が出て来た。
携帯電話を片手に渋い顔をしている。
その様子から事情を察した赤司が尋ねた。

「灰崎はまたサボりですか」

「二軍の奴が女と歩いてくところを見たそうだ。ケータイも電源切ってやがる。たく、しょーがねぇな、あいつは…」

元々素行の悪さが目立つ灰崎だったが、最近では他校生との喧嘩に女遊びにと、目に余るほどになってきている。
未だに退部勧告を言い渡されていないのが不思議なぐらいだ。
それは自分が“使える”部員だと解っているから、そう簡単には辞めさせられないはずだと考えているのだろう。
事実、SF(スモールフォワード)は灰崎が抜けたら大きな穴となる。
今の状態では、だが。

「コーチには俺が知らせておく。お前も急げよ」

そう言うと主将は一足先に体育館へ向かった。

「そろそろ限界かもしれないな…」

主将の背中を見送っていた赤司がぽつりと呟く。
その眼がゾッとするほど冷たく感じられて、七海は思わず幼なじみの腕を握った。

「征くん…?」

「大丈夫だ」

優しい声音で断言されて頭にぽんと手が置かれる。

「お前は何も心配しなくていい。揉め事が起こるような事態にはならないよ」

そう微笑んで赤司は更衣室に入っていった。

残された七海は、先ほどの赤司の言動から、灰崎に残された時間が残り僅かであることを感じとっていた。



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