「黄瀬涼太っス。よろしく!」 二軍の体育館にサポートに入りにいった七海は、噂の黄瀬涼太から挨拶された。 「七瀬七海です。よろしくね」 「さっき挨拶した子も可愛かったスけど、七瀬さんも可愛いっスね」 「さっき?」 「あー、今から一軍に行くって言ってた、胸の大きい…」 「ああ、さつきちゃんかぁ。可愛いよねぇ」 「そうそう!そんな名前の。いやぁ、可愛いマネージャーばっかりで、練習も気合いが入りそうっスよ」 にこにこ笑ってはいるが、本当に心から笑っていない気がして七海は内心首を傾げたが、「練習頑張ってね」と言って自分の仕事に取りかかった。 黄瀬は入部したばかりということで、基礎が全く出来ていない状態だったが、驚くほど飲み込みが早く、教えれば大抵のことはすぐにこなしてみせた。 本人曰く、「見れば大体の事は出来るようになる」とのことだった。 反復ダッシュをやっている黄瀬を見ながらタイムを取る。 ずば抜けて速いわけではないが、間違いなく今の二軍メンバーの中では一番スピードがある。 パスワークなども初めこそぎこちなかったが、一巡を終える頃にはすっかりサマになっていた。 ディフェンスなどはまだ難しいかもしれないが、シュート率は悪くない。 と言うか、二軍メンバーの中では明らかに頭一つ分飛び抜けていた。 「名前なんて言うんスか?へえ、みっちゃんかぁ。可愛いっスね」 練習の合間に二年のマネージャーに軽口をたたいている彼だが、バスケをやっている時の目は確かに真剣なものだった。 実力があるのも間違いない。 (なるほどなぁ…) 黄瀬を観察しながら七海は納得していた。 彼は“とりあえず”二軍に振り分けられたのだ。 いくら才能があったとしても、完全なバスケ初心者をいきなり一軍に入れるのはさすがに無理がある。 だからまずは二軍に入れて、ある程度基礎を固めた上で一軍に上げる心積もりなのだろう。 赤司の言った通りだった。 彼はすぐに一軍に上がる。 それも、そう遠くない日に必ず。 七海は何だか少し怖かった。 少しずつ駒が揃っていくような、そんな奇妙な感覚を覚えて寒気がした。 赤司は、七海の幼なじみは、いったいどれくらい未来(さき)まで見透しているのだろう? |