黒子テツヤの初陣となった週末の練習試合だが、前半はとにかく散々だった。

しょっぱなから転んで鼻血を出してレフェリーストップを食らい、コートに投入されてからも肝心なパスを外してばかり。
ただ緊張しているせいだけではないダメっぷりに、コーチの目がどんどん冷ややかなものになっていくのを目の当たりにして、七海はまずいなと感じていた。

気持ちは分かる。
対戦相手である各校というギャラリーがいる上にアウェーでの初陣となれば、どれだけ肝の座った人間でも“いつも通りのプレイ”が出来るようになるまで時間がかかるはずだ。
ただ、公式戦ではもっと大勢の見ず知らずの他人に見られながら試合をするわけだし、場合によっては対戦相手の強烈な応援やブーイングの嵐に見舞われることもあるのだから、これはこれでいい練習になったかもしれない。
これで降格処分をくらって三軍に逆戻りにならなければ、だが。

「そうだな。この程度でプレッシャーを感じているようでは確かに試合には勝てないね」

前半戦が終了しての昼休みを兼ねた休憩時間、七海の感想に対して赤司はほぼ同意を示してくれた。

「とにかくミスが多すぎる」

弁当を食べ終えてお茶を飲みながら、赤司は考えこむように言った。

「このままではダメだ。午後には使って貰えない可能性もある」

「やっぱり…」

七海はため息をついた。
彼女自身は殆ど弁当に手をつけていない。
最悪の事態を想定してしまうと、心配で食事が喉を通らなかったのだ。

「でも、変なんだよね」

「何がだ?」

「うまく言えないけど、違和感があるというか……」

七海は首を傾げた。

「うまく動けてない感じがする」

「それは緊張しているせいで?」

「それももちろんあると思う。緊張してミスをして、ますます身体が固くなっちゃって…という悪循環になってるのかもしれないし」

でも、と七海は続けた。
聞いているの赤司だけだ。
他の部員はそれぞれ食事をしていたり話したりしていて、こちらの会話に耳を傾けている様子はない。

「私、暫くずっと三軍のサポートしてたでしょう?」

「ああ」

「それに、黒子くんと青峰くんの居残り練習も見てたし。その時と比べて、何か動きが違う気がするんだよね。ズレてると言うか…」

七海はうーんと唸った。
赤司くらい頭が良ければ適切な表現で伝えられるのだろうが、どうもうまい言葉が見つからない。

「ズレている…か」

赤司が顎に手をやって呟く。
その向こうで、「あれー?」と紫原が声をあげた。
手には財布を持っている。

「これ、峰ちんのサイフじゃね?」

「何をしに行ったのだよ、あいつは…」

青峰は桃井からの差し入れ弁当のあまりの壮絶さに絶望し、コンビニに行くと言って席を外していた。

黒子が「僕が届けてきましょうか?」と言い出し、紫原がひょいっと財布を黒子に投げる。
財布は黒子の手に当たりはしたが、うまく受け止められずに弾かれてしまった。

「急に投げないで下さい」

「えーそっちがトロいんでしょ〜?」

「こら、紫原くん」

七海に注意された紫原が、自分は悪くないという風にそっぽを向く。

そのやり取りを赤司は何事か考えながら見つめていた。


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