それから七海は仕事の合間に何度も黒子の様子を見に行った。

部室にクーラーボックスを用意して、黒子用のドリンクとレモンの蜂蜜漬けを持って行ったりもしている。
元々赤司用に持って来ていたものに加えて量を増やしたので、誰も気付く者はいなかった。
あるいは、赤司がそれを見たならすぐに気が付いたかもしれないが。

「美味しいです」

「ほんと?良かった」

七海はほっとした。
決して丈夫ではないのに、毎日倒れる寸前まで練習を続けている彼の力になりたかったのだ。

「七瀬さんはどうしてマネージャーをやろうと思ったんですか」

蜂蜜漬けをぱくりと食べて黒子が聞いた。

「征くん…赤司くんがバスケ部に入ったから自然に、かなぁ」

「本当に仲がいいんですね」

「幼なじみだからね」

「青峰くんと桃井さんも幼なじみだそうですけど、七瀬さんと赤司くんとはちょっと違うみたいですね」

「うーん…やっぱりそうなのかなぁ?」

「赤司くんと付き合ってるという噂も聞きました」

「付き合っては…ない、と思う…」

七海は思わず言葉に詰まった。
そうだ。
付き合うということは、何かしらのきっかけや告白から始まるものだが、そうしたものはなかったように思う。

「私達はただの幼なじみだよ」

「…すみません。何か触れてはいけない部分に触れたみたいで」

「…黒子くん、謝ってるようで追い討ちかけてるよそれ」

「すみません。でも、ちょっと嬉しいです」

「嬉しい?」

「もう練習に戻りますね」

黒子は立ち上がると、何度かボールをバウンドさせ、ゴールに向かってドリブルして行った。
伸ばした手から、シュッとボールを放つ。

黒子の手から放れたボールは、綺麗な放物線を描きながら宙を飛んでいき、リングにガッと当たって体育館の床に落ちて跳ねた。

「…外れました」

「…外れたね」

一生懸命練習をしているはずなのに、いっこうに上達しないのは何故なのか。
その後も何度もリングに当たっては落ち、当たっては落ち、を繰り返すボールを見ながら、七海は首を捻って悩んだ。



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