あれから七海は黒子テツヤを気にかけるようになった。

三軍の練習をサポートする時には、なるべく彼の体調の変化に気をつけるようにしたし、それ以外の時でも、力になれる時には手を貸すようにしていた。

そして、入部テスト以来の最初の定期テストの日。

マネージャーの元にもファイルして保管する用の名簿が配られたのだが、残念ながら黒子テツヤの名前は三軍のリストのままだった。
ランクアップは簡単ではない。
努力は必ずしも報われるとは限らない。
しかし──。


「──七海」

「えっ?」

気がつくと、目の前に赤司の顔があった。
両手で頬を包むようにして顔を上げさせられ、視線を合わせていた赤司の目が七海の目を見つめている。

ここは部室近くの廊下で、辺りは暗く、他の生徒の姿はない。
他の部員はもう帰ったのだろう。とても静かだ。

「何か悩み事でもあるのか?」

それはただの質問ではなく確認だった。
彼に隠し事は出来ない。
七海は困ったように笑って赤司の手に自分の手を添えた。

「悩み事というか……三軍に、ちょっと心配な子がいて」

「そいつが何か問題でも?」

「ううん、そういうんじゃなくて、凄く頑張ってるんだけど、なかなか結果が出せないみたいで……」

無言で先を促され、七海は溜め息をついた。

「今回の定期テストでもランクアップ出来なかったの。…なんだろうね、ずっと心配しながら見てたせいか、私まで自分の事みたいに落ち込んじゃった」

「最近様子がおかしかったのはそのせいか」

「心配かけてごめんね」

「ああ、心配したよ」

「…ごめん」

赤司は七海の手を握って歩き始めた。
彼に手を引かれる形になって、七海も慌てて足を動かした。

「征くん?」

「小さい頃はよくこうして歩いたな」

「…うん」

冷やかされても赤司は気にせず、ずっと七海の手を引いて歩いてくれた。
今も、お前は一人じゃないよと言われているようで嬉しかった。

「俺も会ってみたいな」

「え?」

「三軍のその彼に。お前が入れ込むぐらいだから、素質はあるんだろう。一度この目で見てみたい」

「いじめちゃダメだよ」

「それは約束出来ないな。俺の七海をこんなに心配させたんだから」

「冗談に聞こえないよ、征くん…」

「冗談を言っているつもりはないからね。それで、その彼はなんていう名前なんだ?」

「…いじめそうだから教えてあげない」

「いいさ。直にわかることだからね。その時はじっくり観察させて貰うとしよう」


そして、その通りになった。



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