第4体育館では、今年も恒例のランク分けテストが行われていた。
開かれたままの扉からその熱気と激しさが伝わって来る。

一方、七海達マネージャーは、マネージャー志望の一年生の指導を任されていた。
教えなければならない事は山ほどある。
それをどう伝えるかが問題だった。

「ドリンクは5℃から15℃が理想とされているから、基本10℃前後ね。冷たくし過ぎると内蔵に負担がかかってよくないし、ぬるすぎると飲みにくいから、作る時は必ず温度を計って、冷蔵庫で管理する時も温度変化には気をつけて」

「10℃…」

一年生達が忘れないようにと、言われた内容を手にしたメモ帳に書き込む。
去年自分もせっせとメモしたなぁと懐かしく思いながら、七海は説明を続けた。

道具の場所や作り方を教え、それらをメモさせると、もう一度指差し点検で一から確認させる。

「今日は挨拶回りも兼ねて一軍の分だけ手渡ししに行くから、顔と名前をしっかり覚えて」

「はい!」

「じゃあ、そっちのカゴ持ってついてきて」

「はいっ!」

ドリンクを入れたカゴを持たせ、一年生を引き連れて歩くのは何だかくすぐったい気分だった。
同時に身が引き締まる思いでもある。
誰かに教えて貰う立場から、誰かを教える立場になったのだという責任感を七海はひしひしと感じていた。
赤司はもっと早くからもっと重い責任を背負ってきたのだ。
改めて幼なじみを尊敬する思いだった。


到着した第一体育館では一軍が既に練習を始めていた。
七海は邪魔にならないように一年生を壁際に移動させ、丁度近くにいた赤司の元に向かった。

「征くん」

「分かった。ちょっと待っていろ」

言わなくても察した赤司が主将に声をかけ、一言二言話すと、彼は練習している一軍に向き直って「終了!」と号令を出した。

ボールとバッシュが床に擦れる音が止み、張りつめていた空気が少しだけ和らぐ。

「配るよ、ついてきて」

「は、はいっ!」

雰囲気に飲まれて立ち尽くしていた一年生を連れて、七海は主将から順番にドリンクを渡して紹介していった。
とりあえず、顔と名前が一致するように覚えさせるのが目的だ。
三年生はともかく、赤司達二年生はキャラクターが濃いからすぐに覚えられるだろう。

ガチガチに緊張している一年生を見て、去年の自分はどうだっただろうと七海は考えた。
ここまでじゃなかったような気もするが、単に慣れてしまったからそう感じるだけかもしれない。

「大丈夫、すぐ慣れるよ」

マネージャーの仕事と一軍メンバー両方の意味合いをこめて声をかけると、一年生達はひきつった笑顔を七海に返した。



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