2/3 


「七海が征ちゃんを怖がっている理由が分かったわよ」

その日の部活後、タオルで汗を拭っている主将を捕まえて、内緒話を打ち明けるような表情で実渕はそう耳打ちした。
彼自身も額に汗を滴らせている。

「征ちゃんを見ると清姫のガブを思い出すから怖いんですって」

「人形浄瑠璃の『日高川』か?」

「そう、それ」

すぐに演目が出てくるあたりさすがだ。
実渕は愉快そうな笑みを浮かべている。
対して赤司は微妙な表情だった。
好きな子に怖がられている理由が、からくり人形に似ているせいだと言われて「そうなのか」と納得出来るはずもない。

「まあ、雰囲気がってことなんだろうけど」

その赤司の気持ちを汲んだように実渕がフォローした。
目が怖いのよ、と言わなかったのは彼の優しさだ。
だがわざわざ言わなくても赤司は気付いているだろう。
彼は恐ろしく頭の回転が速い男なのだ。

「赤司ィー、シャワー先行くぜー!」

体育館の入口に立っている葉山がぶんぶん手を振っている。
その後ろには影のような巨体があった。
彼らに先に行け、と指示を出した赤司は改めて実渕に視線を戻した。

「僕に協力すると言った言葉に嘘はないな?」

「ええ、出来る事ならね」

湿った長い髪を肩の後ろに手で払い、実渕が頷く。

「ねえ、征ちゃん。気持ちは分かるけどあんまり怖がらせちゃダメよ。優しくね」

「ああ、分かっている」


 戻る 
2/3

- ナノ -