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春が終われば夏が来る。
桜の季節が終われば、暑い夏はもうすぐそこまで近付いてきているようなものだ。
みんな普段からしっかり鍛えているので気温によって体調が大きく左右される事はないが、毎日ハードな練習メニューをこなしている以上、脱水症状や熱中症には気をつけなければならない。
外装が丈夫でも中身はそうもいかないからだ。

そんな話を七海と葉山はしながらタオルの山を体育館へと運ぶ途中だった。

「内蔵も筋肉みたいに鍛えられればいいのにね」

「ああ、特に心臓を鍛えられたら便利だなと思うよ」

「征くん!」

親しげに呼びかけた相手は、赤司だった。
彼は七海の幼なじみなのだ。

「小太郎」

「わっ、ごめん!ごめんなさい!怒んないでっっ!」

まるで赤司が拳を振り上げたかの如く、小太郎はビビりながら謝罪した。

「はいこれ。こっちは持って行っとくからさ!じゃ!」

七海の抱えていた籠から一枚タオルを取って彼女に押し付けると、葉山は脱兎の如く駆け出して体育館に飛び込んでいった。

七海は目をぱちくりさせたが、目の前の赤司にそのタオルを差し出した。
「征くん、どうぞ」

「有り難う」

汗だくの姿が激しく色っぽい。
運動直後の全身汗びっしょりの男子高校生なんて言ったら、そっちの趣味がある人以外は、うえーとなってちょっと近付きたくないシロモノなんじゃないだろうか。
それが赤司の場合、うえーとなるどころか逆にふらふらと引き寄せられてしまいそうになるから怖い。

「冷たいな。冷やしてあったのか?」

「うん、冷やしておいたほうが気持ちいいと思って」

「そうだね、ひんやりしていてさっぱりするよ」

「良かった」

冷たいタオルを顔にあてて目を閉じる姿は、あどけさなが残る顔立ちと相まって、少し幼く見える。
でも、可愛い、なんて言ったらきっと猫のように目を吊り上げて怒るのだろう。
それもまたちょっと可愛いと思うのだが、本人に言えばやっぱり怒られてしまうのは目に見えている。



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