石田三成が自分の領地から一人の女性を伴って秀吉と半兵衛のもとにやって来た。 何でも彼女もまた未来の世界からタイムスリップしてきたらしい。 「私の妻に、と思っております。どうか許可を」 と頭を下げた三成に、半兵衛は少し考えさせてくれと言ってその場を収めたそうだ。 まさかと思うが未来から来た娘らしいというだけでその娘を選んだのかと問えば、この娘も天音様のように豊臣に幸をもたらすはずですと答えたのだとか。 天音の場合、半兵衛の病気を治しただけでなく、各地の武将と家族的な絆で繋がれたことにより豊臣の天下統一をやりやすくしたという確かな実績がある。 それで『未来からきた女は豊臣に幸をもたらす』と信じこんでしまったのだろう。 「相手の女性に刀を突きつけて、『私の妻になれ。肯定の返事以外許さない』って迫ってる姿なら簡単に想像出来るんですけど…」 「ああ、僕も容易にその光景が想像出来るよ」 半兵衛は沈鬱な表情で溜め息をついた。 参ったね、と呟く。 「こんな事なら女性の扱いについての教育も施すべきだったかな。生真面目で誠実なところが彼の良さなんだけどね…」 「あまり女の子慣れし過ぎて慶次さんみたいになられても困りますけどね」 「まったくだ」 半兵衛と天音が心配していた通り、三成となまえの仲は拗れに拗れていた。 「私の妻になれ。肯定の返事以外許さない」 「嫌です!ただ未来から来たというだけで妻になれなんて納得出来るわけないじゃないですか!」 「肯定の返事以外許さないと言ったはずだ。貴様に選択権はない」 「そんな横暴な命令には従えません!」 「何故だ。私の妻になることに不満があると言うのか」 「不満だらけです!」 いきなり捕まえられて、いきなり大阪まで運ばれて、いきなり結婚を迫られたのだ。 なまえとしてはとんでもない話であった。 「私の妻になれば、貴様を保護したという茶屋の老夫婦にも恩返しが出来るだろう」 「それは…」 「あの夫婦には褒美を与える。生涯食うに困らぬ財だ。貴様に感謝するに違いない」 それを言われると弱い。 確かになまえを拾って助けてくれた茶屋の夫婦には恩返しがしたい。 けれども、そのためにこの横暴な男の妻になるというのはどうにも承服しかねる話だった。 「同じことを何度も言わせるな。貴様が私の妻になれば、全てが上手くいくというのに、そこまで駄々をこねる理由がわからん」 「私は好きな人と結婚したいんです!」 「ならば私を愛するがいい」 「嫌です!」 「何だと!私の何が不満だ!」 「不満だらけです!」 ここで見かねた半兵衛が部屋に入って行った。 「失礼するよ」 「半兵衛様…!?」 「三成くん。君はもう少し素直になりたまえ。本当は君は彼女のことが好きなのだろう?」 「えっ」 「私は…」 「君は彼女に一目惚れした。そうだろう?」 気まずそうに黙ってしまった三成を見てなまえは目を丸くしていた。 この気難しそうな男が自分に一目惚れしたと、いまそう言ったのだろうか? 「あとはゆっくりお互いに誤解を解いていくといい。頑張りたまえ、三成くん」 半兵衛が部屋から出て行くと沈黙が落ちた。 「三成さん…本当に?」 「半兵衛様のご慧眼は全てを見抜かれる。半兵衛様が仰せになったことは事実だ」 「……そんな」 三成はすっくと立ち上がると刀を抜いた。 不穏に煌めくそれをなまえに突き付けて上から彼女を見下ろした。 「私の妻になれ。肯定の返事以外許さない」 「結局またそれなんですか!」 三成の恋路は前途多難のようだ。 障子の陰で様子を伺っていた半兵衛は深く溜め息をついた。 |