「…どうすればいい」

壁に突いた両手の間に天音を閉じ込めたまま、瞳を伏せて半兵衛が呟く。
そうして瞳を伏せると、長い睫毛が影を落として、ただでさえ儚げな白皙の美貌をよりいっそう際立たせた。

「どうすれば君の全てを僕だけのものに出来る?」

「竹中君……」

驚きに目を瞬かせる。
自分なんていてもいなくても彼は気にもしないと思っていたのに。
秀吉や慶次達に囲まれて幸せだと思っていたのに。
こんな事を言われる日がくるなんて想像もしていなかった。

「竹中君は…いま幸せじゃないの…?」

「君が傍にいないのに?」

苦笑を滲ませた声音で返されて、天音はこくんと喉を鳴らした。
自惚れた自分の勘違いだったらきっと死んでしまう。
というか、かなりおかしな事を聞いてしまいそうな気がするが、もう遅い。止まらない。

「じゃあ……私が竹中君のものになったら、竹中君は幸せになれる?」

半信半疑のまま恐る恐るそう尋ねると、花が綻ぶように目の前の美しい顔が微笑んだ。


**


「おっ、来た来た!おーい、半兵衛!」

校舎から並んで出てきた男女の姿を見つけて、慶次が喜色の滲んだ声をあげる。
彼の傍らで悠然と腕組みをして待っていた秀吉も満足そうに頷いた。
夕陽は完全に沈み、すっかり辺りは暗くなってしまっている。

「半兵衛の奴、突然形相変えて走って行ったと思ったら……いいねぇ、いいねぇ、恋だねえ!」

頭の後ろで腕を組んで慶次が笑う。
天音を伴って戻ってきた半兵衛は、秀吉達が待っているのを見て少し驚いたようだったが、すぐに照れくさそうな笑みを覗かせた。
まだ逃げ出すんじゃないかと心配しているのか、片手にはしっかり天音の手を握って。

「すまない、待たせたね秀吉」

「うむ」

「な、恋っていいもんだろ、半兵衛?」

「君と一緒にしないでくれないか、慶次君」

慶次を冷たくあしらった半兵衛が、恋人になったばかりの少女を優しい目で見る。

「これは愛だよ」





その光景を窓から眺めていた教師は、「ありきたりな結末だな」と呟くと、興味を失ったように窓から離れた。

勿論、松永久秀が良い人だったという結末はない。



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