「貸せ」 会議の後、プロジェクターを片付けていると、目の前に突き出された腕にそれを奪われてしまった。 顔を上げてすぐ目に入ったのは、副社長と同じ銀髪。 随分と個性的というか前衛的な形の前髪をした男の人だなと思った。 確か、石田三成という名前だったはすだ。 「秀吉様のご命令だ。後は私が片付ける」 「社長の?」 ふと振り向くと、副社長との話を終えた社長がこちらに歩いて来るところだった。 後ろには副社長の姿も見える。 畏まった石田さんに倣って慌てて頭を下げると社長が笑った。 「半兵衛とはうまくいっているようだな」 「ど、どこがですかっ!」 まさかの豊臣社長天然疑惑。 思わず立場を忘れて反論してしまったものの、社長は全く気にした様子はなくしみじみとした口調で続けた。 「あのようにはつらつとして幸せそうな半兵衛は初めて見る。これからも半兵衛をよろしく頼むぞ」 大物ならではの細かいことにはこだわらない気質なのか。 この様子では、副社長がナニかやらかしても、「半兵衛よ、元気そうで何よりだ」と笑って許してしまうんじゃないかと思うと怖かった。 更にもう一つ言うと、励ますように私の肩にぽんと乗せられた社長の大きな手をギリギリしながら見つめている石田さんの目つきも怖かった。 うちの会社の男性幹部の人達は豊臣社長のことを好きすぎると思う。 「天音」 社長と石田さんが立ち去ると、入れ替わりに副社長がやって来た。 「すまないが、これから車で自宅まで送っていくから、ニ三日分の着替えと外泊に必要な物を用意してくれないか」 「えっ、もしかして出張ですか?」 「ああ。どうも伊達がおかしな動きをしているらしくてね。視察の予定を繰り上げることにしたんだ」 株式会社伊達は、仙台を拠点とし、ずんだ餅や鍋や駅弁など戦国時代をモチーフとした食品部門で快進撃をしている注目の企業だ。 代表の伊達政宗はどうも思いもよらない行動をとるということで、副社長は要注意人物としてその動向を常にチェックしていた。 副社長が危惧しているのは伊達に先手を打たれることだろう。 我が社と副社長にとってライバルなら、私にとってもライバルだ。 「分かりました。そういうことならすぐ出発しましょう!」 「頼もしいね」 早足で歩き出した私に副社長が笑った。 |