「僕は昔からどうも肺が弱くてね…」 副社長が溜め息をつく。 「前に大病をしたときにも秀吉には随分迷惑をかけてしまったんだ。もうこれ以上の失態は許されない」 そうだったのか。 だから、救急車を呼んだとき抵抗したんだ。 きっと心ない人達から、あんな病弱な男では副社長は勤まらないだとか色々言われたに違いない。 それを気にしてダメージを受ける人だとは思えないが、秀吉社長に迷惑をかけたという意味で責任を感じてしまったのだろう。 だから──そういう事があったからこそ、さっきは私を心配して忠告してくれたんだ。 そう思うと胸が痛んだ。 「それなら、尚更きちんと安静にしてなきゃダメです」 私は副社長の目を見て訴えた。 少しでも気持ちが伝わればいいと思いながら。 「社長に迷惑をかけられないと思うなら、無理しないで下さい」 てっきり、「君に何が分かる!」とかそういうキツい言葉が返ってくるものだと思っていたのに、副社長は怒るどころか柔らかく微笑んで私の髪を撫でた。 「有難う……君にも心配をかけてしまったね」 そのまま後頭部に回された手に引き寄せられ、副社長の胸に抱き込まれる。 「すまないが、少し元気を補給させてくれ」 きゅう、と私を抱きしめてくる副社長のスーツは外気で冷えて冷たかったけれど、彼の手や吐息は温かかった。 やっぱり熱があるのかもしれない。 「移る病気じゃなくて良かった。もしそうだったらこんなことは出来ないからね」 大丈夫、すぐによくなるよ、とあやすような優しい声で囁かれる。 「あ、あの…」 「何だい?」 「どうして、そんな無理をしてまで外出したんですか?」 「ああ、そのことか。僕の手の者から君が元就君と逢い引きするらしいと報告があってね、急いで駆けつけたんだよ」 お巡りさん、ここにストーカーがいます。 |