優しい慰めの言葉を期待していたわけではないけれど、幼馴染の反応はやはり素っ気ないものだった。

「だから我の駒になっておれば良かったのだ」

「それがやだから豊臣に入ったんだってば」

幼稚園から大学まで一緒だった腐れ縁の幼馴染みに、『我の駒になれ』と言われて喜んでついていく人間がいたら教えて欲しい。

しかし、だ。
この元就は顔も家柄も良いお坊っちゃまなので、喜んで捨て駒に志願する女が絶対いないとは言い切れないのが恐ろしいところである。
しかも今は大企業の社長とくれば、寄ってくる女は後を絶たないのではないだろうか。

そんな彼が一時期怪しげなカルト教団に入信して「サンデー毛利」と名乗っていたことは今までは黒歴史になっている。

「なんでどうして……私はただ、普通に就職してそこそこ稼いで貯金もして普通に結婚して、ごくごく普通の人生を歩みたかっただけなのに……」

捨て駒かM奴隷かって、究極の選択すぎやしませんか。
テーブルに突っ伏して嘆く私の向かい側では、元就が涼しい顔であんみつを食べている。
こいつも大概女王様だ

「長曾我部はどうした。真っ先にあやつに泣きつくと思っていたが」

「元親には昨日電話で、喫茶店での出来事から病院での事まで全部話した。お前も大変だなって慰められた」

元就に捨て駒になれ発言をされた時も、真っ先に訴えた相手は元親だった。
元親はもう一人の幼馴染だ。

「他には何と言っていた」

「え……辛いときはいつでも愚痴っていいぜ、とか、そんな感じのことを言われたけど」

「それだけか」

完食した元就がスプーンを置く。

「姫若子にしては上出来よ。余計な事を言わぬだけの知恵はついたようだな。まったく成長しておらぬ者もいるが」

「えっ、なにそれ? どういう意味?」

元就は頭が悪い子供を見るような目で私を見た。

「鈍いにも程があるという話ぞ」

話は終わりだ、と一方的に宣言した元就は、目線で店員を呼び寄せ、あべかわ餅を追加注文した。
まだ食べるのか。

こうなると、もうガンとして話をしてくれなくなることは分かっていたので、私は仕方なく一人で店を出た。

帰ったらまた元親に電話してみよう。
そんなことを考えながら歩いていたら、誰かにぶつかりそうになってしまった。
慌てて「すみません」と顔を上げた途端、視界が真っ白になる。

視界を白く染めたもの。
それは白いスーツだった。

「毛利元就君と何を話していたんだい?」

口調こそ柔らかいものの、底にゾッとするような冷たさを含んだ声が耳を打つ。

「…副社長…」

「半兵衛と呼ぶよう言ったはずだよ」

綺麗に微笑んでみせたその人は。
入院しているはずの副社長が、すぐ目の前に立っていた。



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