突然身体を襲った衝撃。 気が付いた時には水の中だった。 ゴボッと空気の泡を吐き出し、訳が解らないまま何とか水面に出ようともがく。 その手首を掴まれて一気に引き上げられた。 「……ぐ、…げほっ…!」 咳き込みながらもどうにか酸素を吸い込む。 身体の下と手の平に砂利の感触。 目を開いて見回せば、そこは川辺だった。 「ど…どうして…」 「何もない空中に突然現れて川の中に落ちたのですよ」 「……え………?」 知らない男の声が示した答えに、なまえは思わず濡れた顔をあげて上を見上げた。 頭上には厚い雲に覆われた空がある。 川の左右は切り立った崖。 崖の向こうは森なのか、宙へ枝を伸ばす木々が見えた。 見た事のない景色だ。 勿論、なまえがさっきまでいたはずの場所ともまったく違う。 「あの…有り難うございました」 先ほど自分を引き上げてくれたのはこの男だろうと、とりあえず礼を述べたのだが。 「ふ………く、…くくくっ、ハハハハハハッ!」 突然笑い出した男にギョッとして身を退くと同時に手首が強い力で握られ、グイッと引っ張られた。 「面白い娘ですね」 ぐっと顔を寄せてきた男が吐息がかかる至近距離で囁く。 絡みつくような、というのか、ねっとりした目で見つめられる感覚は、まるで視線で顔を舐め回されているみたいだ。 喉元には彼が持つ鎌の鋭い刃が当てられている。 「私に殺されるとは思わないのですか?」 「殺すんですか?」 「それも良いかもしれませんね。貴女の血はきっと美味しそうな色をしているでしょう」 そう言いながらも、男は鎌を遠ざけてなまえを解放した。 呆然としているなまえを見下ろし、唇を歪めて笑う。 「殺すのはやめました。その代わり、私と来なさい」 「光秀様!!」 反対側から別の男の声がした。 今までのやりとりに気を取られていたせいでなまえは気付かなかったが、他にも何人かの男達が傍に控えていたのだ。 「このような怪しい娘をお連れになるなど…ッ!」 「怪しい人間というならば、この私も充分そう見えると思いませんか?」 「そ、それは…」 「即答出来ない時点で認めたも同然ですよ。フフフ…酷いですねえ」 「ひぃっ…! お、お許しを…!」 青ざめて震え上がる家来を見下ろし、男は肩を揺らして笑った。 完全に遊んでいる。 「私は退屈が嫌いです。この娘は私を愉しませてくれそうだ……理由などそれで充分ですよ」 そう言って、男はまたなまえに視線を戻した。 「一緒に来なさい」 |