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なまえを拾ってくれた男は明智光秀と名乗った。
そう、“あの”明智光秀だ。
どうやってかは知らないが、なまえは戦国時代にタイムスリップしてしまったらしい。

いや、それも少し違うかもしれない。
ここはなまえが学校の授業で習ったりテレビドラマで見たりした戦国時代とは様々な点で異なっていたのだ。
もしかすると、戦国時代によく似た別の世界なのかもしれない、となまえは考え始めていた。

そう考える一番の理由は、やはりなまえの拾い主である明智光秀だ。
何というか……彼はかなりぶっ飛んだ人間だったのである。
だがまあ、他に行くあてもないので、なまえはそれなりにこの世界と光秀に順応し始めていた。


「光秀さんは好き嫌いの振り幅が大きいですよね」

貰ったお饅頭を食べながらなまえは言った。

「好きなもの、興味を持ったものには物凄く執着するのに、興味がないものは本当にどうでもいいって感じですもん」

「皆そんなものではありませんか」

「まあ、大なり小なりそんなところはあるかもしれませんけど、光秀さんは隠しもしない上にくっきりはっきりし過ぎですよ」

「貴女の事は好きですよ」

「食べ物を見る目で見ないで下さい。私は光秀さんのお弁当にはなりませんからねっ!」

この世界にはバサラと呼ばれるものがあり、特殊な能力を持つ人間がいる。
この明智光秀は闇属性だった。
誰かを攻撃することで相手の生命力を奪えるのだそうだ。

戦場で更なる獲物と血を求めて突き進んでいく光秀を、「せめて怪我の手当てを!」と利三ら臣下の者達が慌てて追いかけていくのがいつもの光景だった。
そうしてついてきた部下に鎌を突き立てて体力を吸収するのだから、光秀は鬼だ。
自軍の兵士達を自分の後ろをついてくるお弁当くらいにしか思っていないんじゃないかとなまえは密かに訝っていた。

一見、いくさの最中は狂乱状態に陥っていると思われがちな光秀だが、実際には彼は将として意外なほど冷静に状況を把握している。
だからこその“栄養補給”だ。
それは非常に恐ろしい真実だった。
何故なら、一時的に錯乱しているのではなく彼が“本物”だという何よりの証拠であるからだ。

「そういう意味ではありません。まあ、多少はそういう意味でもありますが」

「…もうどういう意味でも怖いので嫌です」

「ひどいですねぇ」などと笑う光秀はのんびり座っていると、ただの美青年にしか見えない。

小鳥が一羽舞い降りてきて、なまえ達がいる縁側に止まった。

いかにものどかで平和な光景であるが、なまえはこれが見せかけの平和であることを知っている。
もうすぐ何が起こるのかを。



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