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放課後の生徒会室。
キーボードを叩く音に混じって、先ほどから慶次が懇願する声が響いている。

「なあ、頼むよ半兵衛。一生のお願いだからさ。な? いいだろ?」

「その台詞は前にも聞いたよ。君の『一生のお願い』とやらは人生の内に何回あるんだい、慶次君」

視線すら向けないまま冷たく切り捨てた半兵衛に、慶次は情けない顔で「これが最後だから」と取り縋った。
勿論、そんな事で心を動かされるような生徒会副会長ではない。

「クリスマスなんだぜ!? なんでバラバラで過ごさなきゃいけないんだよ! 秀吉とねねだってさ、」

「だから、その秀吉のためだと言っているんだ」

うんざりしたように溜め息をついた半兵衛は、横目で慶次を睨んだ。

「今年くらいねね君と二人で静かに過ごさせてあげようというのが、そんなに理解出来ないのかい?」

「そりゃあ、分からなくもないけどさ……でも毎年一緒に遊んでたのに、今年になっていきなりダメだって言われても納得いかねえよ」

慶次は拗ねた子供のような表情で言った。

「それに、秀吉とねねがダメだからって、なんで半兵衛と天音まで遊べないことになるんだよ!」

「君に付き合う義理がないからに決まっているだろう」

「ひどっ、ひでえッ!お前ほんとに酷いな!!」

「何を今更」

さらりと言って、半兵衛はマウスを操作した。
適当に慶次の相手をしつつも着々と仕事を片付けていくその姿に、天音は惚れ直した。
半兵衛は間違いなくデキる男だ。

「なあ、天音だってそう思うだろ?皆で遊ぶほうが絶対楽しいって!」

慶次はつれない半兵衛から天音へと矛先を変えることにしたようだ。

「クリスマスは友達同士集まってワイワイ過ごすイベントだよな!?」

「ううん違うよクリスマスは家族で過ごす日だよ」

「君のその慶治君に容赦のないところが好きだよ、天音」

容赦なく切り捨てた天音に、ノートパソコンから目を離さないまま半兵衛が満足そうに口端を吊り上げた。

「諦めたまえ、慶次君。今年は学園祭で充分騒いだだろう?もういいじゃないか」

「学園祭とクリスマスは全然違うって!」

今年の学園祭、慶次は実行委員長を務めた。

半兵衛は「あんな無責任な男が実行委員長だなんて…」と納得いかない様子だったが、天音は意外と適任なのではないかと思っていた。

半兵衛は反論するだろうが、学園祭は言ってみればお祭りだ。
こういったイベント事は何よりもノリが大切である。
そのお祭りイベントの象徴とも言える実行委員長は、責任感の塊のような生真面目な人物よりも、先頭に立って皆を引っ張っていき、一緒に楽しめる人物のほうが相応しいのではないだろうか。

開催のための面倒な作業や見回りなどの裏方は、それこそ実行委員長の手足である実行委員達や自分達生徒会がやっていけばいいのだ。

事実、慶次のノリのお陰で、学園祭は非常に盛り上がって大成功に終わった。



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