商品の配送時間はコンビニによってそれぞれ違うが、天音がバイトしているこの店では、夕方5時にパンの一便納品が来る。 陳列されている商品を日付順に並べ直したり補充したり、乱れた部分を整えるフェイスアップと呼ばれる作業をしている最中にパンのトラックが来たため、天音はそのまま検品作業に移った。 業務用携帯端末・通称ハンディの電源を入れてボタンを操作し、手早くピコピコとバーコードを読み取らせていく。 数に間違いがないか、発注した物がちゃんと揃っているか確認した後、検品が終了したパンを棚に並べていると、頭上に影が差した。 コツ、と革靴が鳴る音が背後から。 「お勧めのパンは?」 「はい、惣菜パンならお好み焼きパン、甘いのならメロンパンがお勧めで、……す」 振り返って見上げる先で、背後に立っていた男が微笑んだ。 「じゃあ、それを買って帰ろうかな」 「半兵衛さん!」 仕事帰りなのか半兵衛はスーツを着ていた。 量販店で売っている吊るしの物ではなく、きっとオーダーメイドなのだろうと思わせる高級感漂うスーツだ。 「お好み焼きパンとメロンパンだったね。ああ、これか」 半兵衛が棚からパンを取る。 はい、と手渡されたそれを受け取った天音は、どうして、と呟いた。 「どうしてここでバイトしてるって分かったんですか?」 「近頃の探偵は優秀だね。人間一人の一日の動向を調査するくらい造作もないんだから」 「こ、怖いです!」 「冗談だよ」 「冗談に聞こえません!」 「じゃあ冗談じゃなくて本当なんじゃないかな」 「もっと怖いです!」 「君は相変わらず面白い子だね」 くすくす笑う年上の恋人を赤い顔で睨む。 どこまで冗談でどこまで本気なのか分からない。 とりあえず、外を歩く時は誰かに尾行されていないか注意しようと心に決めた。 |