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「慶次君に聞いたんだ」

「慶次さん?」

「そう。この前偶然通りかかった時に君を見かけたらしくてね」

ふとバックヤードに繋がっているドアが開き、休憩中だった店長が顔を覗かせた。
知り合いが訪ねてきたとは言え今は仕事中だ。私語は慎むべきである。
慌てて謝ろうとした天音にニヤリと笑い、店長はまたドアの向こうに引っ込んだ。
これは──おおらかな店長で良かったと言うべきだろうか。

「半兵衛さん、これ会計しちゃっていいですか?」

「ああ、構わないよ」

天音はパンを持ってレジに向かった。
バーコードを読み込ませ、金額を半兵衛に告げる。

「生憎、細かいのは持っていないんだ」

財布から一万円札を出した半兵衛に、この金持ちエリートめと思わずにはいられなかった。

「そういえば慶次さんて今なにしてるんですか」

「慶次君なら大学を卒業してからずっとフリーターをやっているよ」

あまりにもらしすぎる。
自由すぎる前田家の風来坊の将来については天音が心配しても仕方がないのでいいのだが。

「半兵衛さんはいいですよね、国家公務員だから将来安泰で」

「僕の将来が安泰なら、君の将来も安泰だということになるんじゃないかな」

「は、半兵衛さんに殺し文句で殺される!」

パンが入ったビニール袋を受け取って半兵衛が笑う。

「だからコンビニでバイトなんてしなくてもお小遣いくらい僕があげるのに」

「それじゃダメなんです、だって、」

言いかけて、ぱくっと口を閉じた。
半兵衛は何だか優しい顔で笑っている。

「うん。楽しみにしているよ、クリスマスプレゼント」

真っ赤だね、と微笑んだ半兵衛に、赤く染まって火照る頬を冷たい指でつつかれた。



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