今年最後の登校となる終業式の日は、幸か不幸かクリスマスイブだった。 明日はクリスマス。 散々悩んだ末に、今日渡してしまおうと決意して半兵衛へのクリスマスプレゼントを隠し持って来たまでは良かったが、なかなかタイミングが掴めずに、結局放課後になってしまった。 教室にはまだ何人かの男子生徒が残っている。 「やっぱ手編み系は重くない?」 一旦教室を出てから戻って来たところ、中からそんな声が聞こえて来た。 「おまじないだっけ?髪の毛とか入れたりすんの。バレンタインのチョコとかもそうだけどさ、だから手作りはちょっとなあ」 「そうだね」 これは半兵衛の声だ。 「確かに喜んで受けとりたい物とは言えないね」 ショックのあまり、思わず手にした袋を落としそうになってしまった。 今持っている包みの中身がまさしく手編みのマフラーだったからである。 何ヶ月も前から練習に練習を重ね、ようやく納得のいく仕上がりになった物だった。 でももう、とてもじゃないが渡せない。 気がついたときにはその場から逃げ出していた。 聞かなければ良かったという気持ちと、渡す前に聞けて良かったという気持ちとが、グチャグチャに混ざりあっている。 「天音!」 後ろから名を呼ばれてハッと振り返ると、追いかけてくる半兵衛の姿が見えた。 慌てて走る速度を上げ、階段を駆け降りる。 「待ってくれ!」 必死で走ったものの、相手は学年一の俊足を誇る半兵衛だ。 昇降口に辿り着く前に呆気なく捕まってしまった。 「捕まえた」 「は…はんべ…」 全力疾走したせいでまだ呼吸が整わずにいる天音と違い、彼女の腕を掴んでいる半兵衛は息もきらせていない。 いくら病弱だと言っても、やはり男と女の体力差があるのだ。 「どうして逃げたりしたんだ」 言いながら、半兵衛の目がチラと天音が持つ袋に注がれる。 反射的に身体の後ろに隠そうとしたのだが、それよりも早く半兵衛に袋を奪われてしまった。 「これは……そうか、さっきの話の途中だけ聞いたんだね」 天音の態度と持った感触で袋の中身を察したらしい半兵衛が納得した様子で苦笑した。 「あれはね、恋人でもない女子からクリスマスプレゼントとして渡されて困る物は何かということで話していたんだ」 「そ…そうなの…?」 「そう。誰だってよく知らない相手から手作りの物を貰っても困惑するだけだろう?」 そうかもしれない。 それほど仲が良いわけでもない男子に突然呼び出されて手作りクッキーなんて渡されたりしたら、確かにちょっと困る。 異物が混入されている可能性だって無きにしもあらずだし、たぶん食べないだろう。 |