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リリパット国に迷いこんだガリバーもこんな気分だったのだろうか。

困惑しつつも神妙な態度で地べたに正座している天音の前には、リカちゃん人形サイズの男が立っている。
周囲にいる人々も同じくらいの大きさだ。
皆いわゆる戦国時代のものとおぼしき恰好をしている。

周りの景色も、まるで縮小サイズのミニチュア模型の箱庭に迷いかんだかのように木々も建物も小さい。

「では、君は自分でもよく分からないがどうやら違う世界から来たみたいだと、そういうことかな?」

「はい…たぶん」

男の問いかけに天音は頷いた。

彼の名前は竹中半兵衛。
ここは豊臣秀吉の領地で、彼は豊臣軍の参謀であり軍師なのだという。

突然(彼らにとっては)巨大な女が現れたとき、ギョッとして騒然となった兵士達を静めて冷静に対処してくれたのも彼だった。

冷静に話が出来る相手がいてくれて本当に助かった。
何しろ天音自身、自分に何が起こったのかさっぱり分からずにいるのだ。

学校帰りに不意に地面が消えて“落ちた”先が、このミニチュア戦国時代だった。

半兵衛からの質問に一つ一つ答えることで、順序だてて説明することが出来たお陰でパニックにならずに済んでいるが、そうでなければ混乱して泣き出していたかもしれない。

彼らはこれから戦(いくさ)だということで、無罪放免とはいかないものの、一先ず尋問タイムは終了となった。

「まだ聞きたい事は色々あるけれど、残念ながら今たてこんでいてね。君の処遇を含めて詳細はまた後でゆっくり話し合うとしよう。それでいいかい?」

「はい」

縛られたり拷問されたりすることはなさそうだと知り、ほっとして天音は少し笑顔になった。
西洋人形のような綺麗な顔を仮面で隠した半兵衛も、微笑んで彼女を見上げてくる。
それが計算して作られた笑顔と紳士的な振る舞いだとしても、ひとりぼっちで異世界に投げだされた天音にはとても有り難く感じられた。

「ここで大人しく待っていたまえ。その大きさで動き回られては城が壊れてしまうからね」

「気をつけます」

これはたぶん冗談なのだろう。しかし、天音は真剣な面持ちで頷いた。
実際、今のこの大きさで不用意に動いたら本当に洒落にならない事態になりそうだったので。

青紫のマントを翻して半兵衛が去っていってすぐに、敵軍の襲来を告げるほら貝の音が響き渡った。

乗り込んできたのは奥州の伊達軍。
天音も日本史で習った伊達政宗と同姓同名の武将が率いる軍だ。

たちまち辺りは刃と刃を交える音や怒声で満ちていった。



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