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ちょうど塀が目隠し代わりになっていて、座っている天音の全身は向こう側には見えていない。

ここから見ている限り、豊臣軍は善戦しているようだった。
半兵衛の指揮が良いのかもしれない。
荒っぽい伊達軍に対し、豊臣の兵士達は統制が取れた動きをしているように見える。

大きさは小人同士でも、これは合戦。
みなぎる緊張感と殺気に天音も固唾をのんで戦を見守っていたのだが──。

「あっ」

半兵衛の姿を見つけた天音は思わずを小さな声を漏らした。

兜に付いた月の形の前だてから見て、彼と対峙している武将は恐らく伊達政宗だ。

二人は何事か話しているようだったが、政宗と思われる男がおもむろに刃を一度鞘に収めた。
そうして、今度は両手で三本ずつ、計六本もの刀を引き抜いた。

(六刀流……!?)

おまけに何だか青い電気のようなものが放電しているみたいにバチバチと刀から放たれている。

対する半兵衛は動揺する素振りも見せず、冷静に構えていた。

半兵衛の持つ細身の剣が鞭のように変化し、砂塵を巻き上げながら大きく振るわれる。
政宗はそれを右手の三本の刀で難なくいなし、地面を蹴って高く飛び上がった。

迎え討とうと構えた半兵衛が、不意に片手で口を押さえて態勢を崩した。
どうやら咳き込んでいるようだ。
そこへ空中から六本の刀を手にした政宗が襲いかかる。

「危ない!」

天音は思わず塀を乗り越えて走り寄り、咄嗟に持っていた学生鞄で政宗を思いきりばしーんとはたき落としてしまっていた。

青っぽいものが凄い勢いで吹っ飛んでいき、ドカン!と大きな音をたてて石垣に穴を開けて見えなくなった。

「あ、ご、ごめんなさい!」

「政宗様!! テメエ…! 政宗様に何をしやがる!!」

ドスのきいた男の声が足元から聞こえ、今度は茶色っぽいものが天音目がけて飛んできた。

「きゃっ…!」

ちょっと大きめの虫が飛びかかってきたときのようにこちらもまた反射的にベシッと鞄でぶん殴ってしまってから、一瞬やばいと思ったものの、やってしまったものは仕方がない。

石垣に人型の大穴を作ってダウンした敵軍の大将と副将を、半兵衛は驚いたように見つめていた。



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