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※猫半兵衛


最低限見苦しくない程度のナチュラルメイクを施し、外出用の服に着替えてリビングに行くと、とっくに支度を済ませていた半兵衛がソファに座り、本を読んで待っていた。
彼のふわふわした銀髪の上から覗いているピンと尖った耳を見るたび、つい触りたくなってしまう。

「お待たせ」

本を閉じた半兵衛がゆるりと顔を上げた。

「行くのかい?」

「うん」

「そう…分かったよ」

ぱたりと一度だけ尻尾を揺らし、半兵衛が立ち上がる。
その秀麗な顔には憂鬱そうな陰が落ちていた。

「やっぱり病院は嫌い?」

「あまり進んで行きたい場所ではないね」

半兵衛は閉じた本を手に、ふうとため息をついた。
半兵衛は子猫の頃から病弱で、動物病院には何度もお世話になっている。
治療してくれるとはいえ、いつも病気で苦しいときに行く場所なのだから、良い印象が持てなくても仕方ないのかもしれない。

「今日は予防注射だけだから、きっとすぐ終わるよ」

「だといいけれど」

さあ、行こうと微笑んだ半兵衛があまりにも儚げで美しかったので、天音は我慢出来ずにその細い身体に抱きついてしまった。
勿論、苦しくないように力を加減して。



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