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予約していた動物病院は、自宅から車で10分ほどの場所にある。
幸いにも待合室の中はそれほど混んでいなかった。

「今日は静かで良かったよ」

待合室の椅子に並んで座った半兵衛が言った。

「前回来たときはひどかったからね」

「あー…幸村君と政宗君が来てたんだっけ」

幸村君は武田さんの家で飼われている犬なのだが、いつも元気いっぱいで、騒がしいのが嫌いな半兵衛はそんな幸村君が少し苦手らしい。
政宗君は片倉さんが飼っている猫なのだが、悪(ワル)そうな雰囲気に違わず、人を挑発したり煽ったりして楽しむ『煽りマスター』で、いつもは冷静な半兵衛もこの政宗君に煽られるとぶちキレてしまう。
その幸村君と政宗君はライバル同士で、顔を合わせればガチバトルをしたがって大騒ぎになるのだった。

「どちかだけでも厄介なのに二匹揃っていたから最悪だよ」

その騒ぎを思い出したのか、苦々しげに半兵衛が言う。

「半兵衛はポーカーフェイス得意だし、物腰も柔らかくて紳士的なのに、意外と好き嫌いがはっきりしてるよね」

「そうかな。とにかく煩いのだけはどうにも苦手でね」

「うん、わかる」

「君のことは大好きだよ」

「私はもっと大好きだよ」

「僕は愛してる」

もうひとつの椅子に座っていた女の子が驚いたように顔を真っ赤にしてこちらを見たが、半兵衛は涼しい顔のままそちらを気にする素振りも見せなかった。
知らぬ顔の半兵衛だ。

そうするうちに半兵衛が名前を呼ばれたので、天音は彼と一緒に診察室に入った。


「とくに もんだいはないでしょう」

簡単な問診の後、注射をして診察は終了した。
院長の上杉先生は今日も性別不明な美人だった。

「げんきでやっているようですね。よきことです。かすが」

「はい、謙信様」

院長の助手のかすがが頷いて後の説明を引き継ぐ。

「一応栄養剤は出しておくが、食事もきちんとバランスよく食べさせているようだから無理して飲ませなくてもいい。引き続き体調管理に気をつけてやってくれ」

「なにかあれば、またいつでもきなさい」

「はい、有難うございます」

「かすが、そなたも ごくろうでした」

「ああ…かすがは…かすがは……謙信さまああ〜!!」

完全に“謙信さまモード”に入ったかすがは、自身の腕でその豊満なボディを抱きしめるようなポーズをとり、恍惚の表情で身をくねらせた。
腕に圧迫されて、白衣の胸元からはみ出んばかりに盛り上がったおっぱいは、男が見れば鼻血モノの光景だろう。
しかし半兵衛はそれに悩殺されることはなかった。

「お疲れ様、半兵衛」

「帰ったら、良い子にしていたご褒美をくれるかい?」

彼は蕩けそうな甘い声でご主人様の耳にそう囁いた。



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