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天音が知る戦国時代とは様々な点において異なるこの世界。

日本史の年表をそのまま忠実になぞることは不可能だが、参考にすることは出来る。
その点において半兵衛と天音の考えは一致していた。
そして、それは成功しつつある。


「君ならどうする?」

大阪城本丸内の、南蛮風の書架やテーブルなどでしつらえられた作戦会議室。
その部屋の重厚なテーブルの上に広げられた日本地図を前に、半兵衛が天音に意見を求めていた。

「その船は鋼鉄製で要塞を兼ねているんですよね?」

「そうだ」

半兵衛は薄く笑っている。
授業中に生徒に質問する教師みたいだなと思いながら天音は答えを探した。

「先行する部隊の人達は斬鉄は出来ますか?」

「いや」

「じゃあ徹甲弾を作ります。どんな頑丈な要塞でも、どてっ腹に風穴を開けて内部に侵入してしまえばこっちのものですから」

「豪快だね」

半兵衛は鞘から抜いた関節剣をぱしんと手の平に打ちつけて笑った。

「だが、僕も似たような策を考えた。君には本当に驚かされてばかりだよ」

及第点を貰った事に安堵しつつも、天音は半兵衛の事だからきっともっと容赦がない作戦で攻めるのだろうと、戦の相手に少し同情した。

気品があり秀麗な容貌の持ち主であるこの男は、戦闘に熟練した優秀な武将であると同時に、抜け目のない策略家でもあった。
仮面の下に素顔と本心を隠し、不敵な笑みと甘言で相手を惑わせるのだ。

その半兵衛の美しい顔は、ただ色白だというだけではない透けるような白さだった。
見ていて不安になる類いの白さだ。

そして、陣羽織の下に隠されている、肉が落ちて痩せた身体。

そういった一つ一つに、徐々に彼の命を蝕みつつある病が落とす影を見つけては、天音は胸が締め付けられる思いを味わっていた。

この人はもうすぐ自分の前から消えてしまう。

「今回の作戦の詳細は明日の軍議の時に説明しよう。君にも把握しておいて貰いたいからね」

「はい」

天音は真剣な表情で頷いた。

「渡した書は読んでみたかい?」

「はい、全部読みました」

「良い子だ。次の戦が終わったら、その内容について幾つか質問してみることにしよう。期待しているよ」

天音は半ば絶望的な思いにとらわれながら、はいと頷いた。

半兵衛は彼自身がいなくなった後の事まで考えているのだ。
こうして一見気楽な会話に見せかけて授業のように策の練り方を教えるのも、武人でもない彼女を軍議に参加させるのも、全て自分亡き後も秀吉のために働けるようにと考えた上での行動なのだろう。

彼のその期待に可能な限り応えたかった。



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