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「ダメです。まだ熱があるじゃないですか」

「もう下がったよ」

「確かにピークは過ぎたみたいですけど、まだ完全に下がりきってないんだから無理しちゃダメです」

腰に手をあてて「めっ」と叱ると、半兵衛は困ったように微笑んだ。
昨日まで体調を崩していたらしい彼は、まだ熱があるのに、今日は天音とデートの約束をしていてレストランにも予約を入れておいたからと無理を押して出掛けようとしているのだ。

「せっかくの休みにデートもしてあげられないなんて、男として不甲斐ないじゃないか」

「そんなことないです」

天音は熱をこめてきっぱり否定した。

「いつも忙しい半兵衛さんとこうして一緒にいられるだけで充分幸せです」

「可愛いことを言ってくれるね」

「食事とかデートとかも勿論嬉しいですけど、でもそれ以上に、半兵衛さんにそんな風に大切に想って貰えてるんだということのほうが私は凄く嬉しいんです」

やれやれと溜め息をついた半兵衛は、どこか照れくさそうでもあった。

「君は僕を甘やかすのが上手いね」

「半兵衛さんはいつも自分自身に厳し過ぎるくらい厳しい人だから、釣り合いがとれて丁度いいじゃないですか」

「秀吉にも同じ事を言われたよ」

とにかく今日は一日安静にしていること、と天音は半兵衛に厳命した。
半兵衛は出掛けるためにシャワーを浴びて身支度を済ませていたのだが、横になるなら楽な格好のほうがいいからと、もう一度パジャマに着替えさせ、寝室に追いたてた。

スポーツドリンクを飲ませてベッドに横になった半兵衛は、はあ、と息をついた。
やはり辛かったのだろう。
天音にしてみれば、ほらみなさいと言ったところだ。
この人は秀吉や天音のために無理をし過ぎるのである。

秀吉からはここ暫くかなり多忙だったと聞いている。
スケジュールを調整してでも天音に会いたいと思ってくれる事にはキュンとするが、半兵衛に苦しい思いをさせるのは本意ではない。



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