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どうせまともな食事をとっていないだろうからと冷蔵庫をチェックすると、丁度良いことに豚肉と豆腐と韮があったので、肉豆腐と韮卵雑炊を作ることにした。
身体にいいし、弱った胃腸にも優しい料理だ。

材料を切って米と一緒に土鍋に入れ、ぐつぐつと煮えている間に豆腐を切る。
肉を炒めて、ついでにサラダでも作るかと準備していると、白いパジャマに包まれた腕に後ろから抱きしめられた。

「放っておかれたら寂しいじゃないか」

「もう少しで出来ますからちょっとだけ我慢して下さい」

さては熱がぶり返したのかと心配になって半兵衛の首筋に手を当てる。
ほのかな体温は高熱がある人間のそれではない。
安堵しつつも、念のため、と半兵衛の頭を引き寄せて額と額をくっつけてみたが、やはり熱が上がった様子はない。

顔が近づいたのをこれ幸いとばかりに唇にキスをされたが、大きな子供が甘えているだけだと思う事にした。
体調が悪い時は誰だって人恋しくなるものだ。

普段ツンと澄ましている猫が、腹を見せてゴロゴロ喉を鳴らしながら甘えてくる姿を想像して、危うく吹き出してしまうところだった。

「今何か可笑しな事を考えただろう」

何事かを鋭く感じとった半兵衛が探るような眼差しを向けてくる。
さすがだ。

「気のせいですよ」

天音は素知らぬ顔で箸を動かした。

「でも、起きて来たなら丁度いいです。ご飯食べられそうですか?」

「君が作ったものなら何でも食べるよ」

熱のせいで少し潤んでとろみのある紫色の瞳は真剣そのものだった。
この人のこういうところが時々堪らなく愛しくなる。
天才的な知略を駆使して秀吉の片腕として働く彼が、外敵達に恐れられている男が、こんな風に信頼して甘えてくれる女は自分だけなのだという、自信と優越感。
何よりも、愛されているという実感が感じられて嬉しい。

天音は半兵衛をきゅっと抱きしめると、「じゃあ、用意しますから座って下さい」と半兵衛を座らせた。



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