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戦いの後。

勝ち戦の酒宴が開かれる中、天音は陣を張る時に使われる大きな布を敷き布代わりにして貰い、その上にきちんと膝を揃えて正座していた。

「もっと楽にするといい。君は今回の戦の最大の功労者なのだからね」

「…半兵衛さん」

歩み寄ってきた半兵衛は、天音が手にしている湯飲み代わりの大樽を見て少し笑い、優しく彼女に声をかけた。

敵軍の大将と副将を見事討ちとったとして豊臣秀吉直々にお褒めの言葉を賜り、半兵衛の口添えもあって、天音は特別に豊臣軍の一員として城にお世話になることが決まったのだ。

「君のお陰で助かったよ」

「いえ…半兵衛さんが無事で良かったです」

半兵衛は天音を見上げて微笑み、それから瞳を伏せた。

「すまなかったね、巻き込んでしまって。怖かっただろう」

「少し……でも、大丈夫です」

「無理をしなくていい。泣きそうな顔をしていたじゃないか」

ほのかな温もりが手に触れる。
半兵衛の小さな白い手が天音の手に重ねられていた。

「ただでさえ訳が分からないまま知らない場所に放り出されて不安だろうに、目の前で戦いが始まったんだ。怖がって当然だよ。君は普通の女の子なのだから」

「半兵衛さん…」

ぽろ、と涙がこぼれ落ちる。
慌てて手でそれを拭くと、半兵衛が美しい顔に困ったような笑みを浮かべて見上げてきた。

「困ったね」

半兵衛の手が天音の指をそっと握る。

「こう距離があっては、満足に慰めてあげることも出来ない」

夕闇に沈んだ辺りの景色が更に暗さを増していき、山の向こうに完全に日が沈みきって最後の陽光が消えた瞬間、天音の身体に異変が起こった。

「え………え、…あれ……?」

「天音?」

おかしな感じがして胸を押さえた天音を心配して半兵衛が声をかける。

その手が触れていた指が、身体が。
彼が見守る前で、しゅるしゅると縮んでいく。

全ては瞬く間の出来事だった。

「どうして……」

淡い月の光に照らされて、半兵衛よりもずっと華奢で小さな少女が彼の前に座っていた。

「なるほど。これが君の本当の姿なんだね」

座り込んだ姿勢のまま呆然として自分の手を見つめる少女の前に膝をつき、半兵衛が彼女の頬に手を伸ばす。
そうして、瞳の端に溜まっていた涙の雫を優しく指で拭ってやった。

「これで君の涙を拭ってあげられる」



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