テレビ画面の中では、セーラー服の少女が廃虚を探索していた。

セーラー服の女子高生陰陽師が日本刀を片手に悪霊と戦う、というストーリーの特撮ドラマだ。
一部の地方局で深夜帯に放送されていた極めてローカルなドラマであるために世間での知名度は低いが、『日本刀と女子高生』『少女陰陽師』などのポイントに惹かれたニッチなファンがついている事で、ホラーマニアの間ではわりと有名なドラマでもある。

「ほら、ここです」

若くんがリモコンを操作すると、何かに驚いて振り返った恰好のまま女子高生がストップした。
その背後のガラス窓には不気味な男の姿が映っている。
若くんがまたボタンを押すと、一瞬の内にそれは消えていた。

「ネットで見た通りですね」

「でも、こういうホラーものの映画とかドラマの場合、話題作りのためにわざとそういうの作ったりしてそうじゃない?」

「まあ、9割方そうでしょうね。俺も信じてません」

「なーんだ」

若くんがまたリモコンのボタンを押すと、陰陽師の少女も廃虚も一瞬で消え失せた。
余韻に浸っている風もなく、若くんはあっさり画面から視線を移して私を見る。

「七海さんは出来ないんですか、悪霊退治。ちょっと式神飛ばしてみて下さいよ」

「…あのね、若くん。確かにおじいちゃんは神社で神主さんやってるけど、私はただ見えるだけでお祓いとかは出来ないから。あと式神飛ばすのは陰陽師だから。と言うか式神なんて漫画とかでしか見た事ないから」

「チッ…使えないな」

「こらっ!」

ぺけっ、と額に軽くチョップを入れる。
いつからこんな生意気に……と思ったけど、よく考えたら若くんは昔からふてぶてしくて口が悪いお子様だった。
ただ単にそのまま成長しただけだ。

おじいちゃんに連れられて初めて若くんの実家の道場を訪ねたとき、私に向かって発せられた彼の第一声が「チビだな」だった事は一生忘れない。
礼儀に厳しい若くんのおじいさんに烈火の如く叱られてからは、一応年長者として最低限の敬意を払うようになってくれたけど、それでも時々ボロが出るのか、隙を見せればすぐに意地悪な言葉が飛んでくる。
それでも彼は私にとっては可愛い弟みたいな存在だった。

「わあ、サラサラだね」

チョップした手でついでに髪を撫でてみる。
テニスをしてる時や稽古の時は、鋭い動きに合わせて揺れるために流線状に見えるせいか鋭利な印象を受けるけど、実際にはツンツン尖っているわけもなく、意外と触り心地は悪くない。
こうして梳くと指の間をすんなり滑って流れ落ちていく。
若くんが嫌がる素振りをみせないのを良いことに調子にのって撫でていたら、長めの前髪の下の瞳がすっと細められた。

「金取りますよ」

「もー、またそういう憎まれ口きくんだから」

口を開けば生意気なことばかり言うけれど、本当に嫌ならそもそも自分から私に近寄ってくるはずがないし、若くんの性格から言って、嫌な事をされた時には容赦なくハッキリ拒絶されるはずだ。
だから懐いてくれているのだと思っている。

「それより早く飯作って下さい。腹が減りました」

「はいはい」

「今日は魚がいいです」

「はいはい」

「跡部さんや忍足さんにはあまり近付かないで下さい」

「はいはい」


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