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「買い物?」

幸村くんに尋ねられた私は、手元のメモを見ながら頷いた。

「うん。アイシングとか少なくなってきてたから、帰りにショップに寄って帰ろうと思って」

「俺も付き合うよ」

「え、そんな、悪いからいいよ」

「そうか…七瀬さんは俺と行くのは嫌なのか…ちょっとショックだな」

「そんなことないよ!嫌じゃないよ!」

「じゃあ、行こうか」

幸村くんは華のような笑顔をみせて言った。
いつも思うが、手口が鮮やか過ぎてぐうの音も出ない。

そういうわけで、私は幸村くんと駅前のショッピングモールにやって来た。
ここの3階にスポーツショップが入っていて、なかなか品揃えがいいのだ。

「結構人が多いな」

幸村くんが言った。
確かに今日はかなり混んでいる。イベントか何かがあったようだ。

ふと、手にあたたかい何かが触れたかと思うと、ごく自然に手を繋がれていた。

「迷子になったらいけないからね」

嫌かい?と優しい声で言われて、私は首をぶんぶん横に振った。
嫌なわけがない。

「ずっと思ってたんだけど」

「うん?」

「名前で呼んでもいいかな?」

「え、あ、うん、いいよ」

「良かった」

繋がれた手にきゅっと力がこもる。

「七海も俺のこと名前で呼んでくれると嬉しいんだけど」

「そ…それはまだレベルと経験値が足りないので…恥ずかしくて死にそうになるから無理かな…」

「えー」

「いやいや、えーじゃなくて」

まるで付き合いはじめたばかりのカップルみたいな会話だなと思っていたら、

「おお、こんな所にバカップルがおるぜよ」

と、聞き覚えのある声が冷やかしてきた。
見れば、紙袋を片手に下げた仁王くんが進行方向から歩いてくるところだった。
彼も買い物に来ていたようだ。

「仁王くんも買い物?」

「企業秘密ナリ」

「へえ…俺はてっきり、俺に化けるための変装道具を買いに来たんだとばかり思ってたよ。その紙袋の中には、この前ジャッカルにあげちゃったからわざわざ買い直したウィッグとヘアバンドが入ってるんじゃないか、ってね」

「プ…プリッ」

助けてくれと言うように仁王くんがちらっと私に視線を寄越したけど無理だよ。
私も視線で訴えた。
無茶言うな。
大人しく白状しちゃいなよ。

「デートの邪魔をしたらいかんからの、俺はもう行くぜよ」

あ、逃げた。
足早に立ち去る仁王くんを幸村くんは余裕の表情で見送っている。

「フフ…仁王とは明日少し話す必要がありそうだね」

その後、幸村くんの気を逸らすために買い物しながら必死に色々話しかけた私の努力に仁王くんは感謝して欲しい。



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