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いつものように部活を始める準備をしていたところ、コートを見下ろす階段の上に見慣れた姿を見つけて七海は驚いた。
従兄の観月はじめがルドルフの制服姿で立っていたのだ。

「はじめちゃん!?」

七海の声に反応した何人かが準備の手を止めて観月を見ている。
「ルドルフの観月か」と呟いた柳も幸村と何か話している。
七海はすぐに階段を駆け上がって行こうとしたが、観月のほうから彼女のもとに降りて来た。

「確か今日はスクールの日だよね?」

「ええ、通常はそうです」

聖ルドルフの補強組は中学時代と同様、月曜と金曜に学校提携のテニススクールで特別練習を受けている。

「今日は七海の様子を見に来るついでに立海の偵察を行うということで事前に学校側とスクールに報告してありますから問題ありません」

「こんな堂々とスパイに来ました発言する人初めて見たよ…」

「んふっ。心配しなくても今日のところは単なる様子見ですよ。挨拶もしなければいけませんからね」

そう言って、観月は幸村を見た。

「やあ、観月」

「お久しぶりです、幸村くん。七海がいつもお世話になっています」

「とんでもない。むしろ俺達のほうが彼女に世話になっているよ」

「そうですか」

初対面の挨拶は表面上和やかに進んだ。
周囲の人間は内心それどころではなかったが。

「邪魔をするつもりはありません。今日は挨拶がてら様子見に来ただけですから。どうぞ、僕に構わず練習を続けて下さい」

「そこまで堂々とされると逆に文句も言い辛いね」

幸村が苦笑する。

「構わないよ。ゆっくり見ていってくれ」

「ありがとうございます。話が早くて助かります」

土手に設置されたボール避けの壁の内側に回った観月を、七海は仕方ないなぁと見送った。

「もう…ほんと言い出したら聞かないんだから」

「もしかして遺伝なのかな。キミも意外と頑固だろう」

「そ、そんなことないよ!」

「ふふ、ほらやっぱり頑固だ」

楽しそうに笑う幸村の背後から観月の声が飛んでくる。

「近すぎますよ!もう少し離れなさい!」

「邪魔はしないと言ってなかったかい?」

「それとこれとは話が別です」

七海と幸村は顔を見合わせて、やれやれと苦笑した。

「あ、いただーね!」

「おーい、観月!七瀬」

土手の上にまたもや見覚えのある顔が続々と現れた。
どうやら今日は保護者軍団付きで練習することになりそうだ。




切原がやって来て「なんで観月さんがいるんスか?」と不審そうな顔をした。
幸村に話があるからと言っていたのになかなか来ないと思ったら、姉に捕まって用事を頼まれていたらしい。

「そういえば、以前、七瀬さんがお姉さんのようだと言っていましたね」

「あれは、七海先輩が姉貴だったら良かったのにって意味ですよ!あんなのと七海先輩を一緒にしたら七海先輩に悪いっス」

「赤也くんのお姉さんも強烈なんだ…」

「七海が観月の姉の事を考えている確率96%」

「そうか、観月にもお姉さんがいるんだったね」

「はじめちゃんがネチネチちくちくやってくるタイプだとしたら、お姉さん達は機関銃で攻撃した後、倒れた所に手榴弾を投げつけてくる感じ」

「どんだけ容赦ねえんだよ…」

気のせいか、レギュラー達の観月を見る目が同情的になっている気がする。
おもむろに丸井が近づいていった。

「観月、ガム食うか?」

「いえ、結構です」

「何かあったら言えよ。誰にでも愚痴りたい時だってあるからな。いくらでも聞いてやるぜ。ジャッカルが」

「俺かよっ!いや、マジでなんかあったら遠慮なく言えよ」

「観月さん、俺、アンタのこと誤解してました。意外と苦労してるんスね」

「…なんなんですか、いきなり」

困惑していた観月だったが、すぐに理由に気付いたようだ。
七海を睨んでくる。

「七海…」

「な、何も変な事は言ってないよ!」

七海は反射的に幸村の後ろに隠れた。

「それならどうして隠れるんですか!」

「だってはじめちゃんが睨むから…!」

「観月が苦労しているって話してたんだよ」

幸村が助け船を出してくれた。

「うちの赤也がよくお姉さんに叱られていてね、観月の所もそうだから大変だっていう話をして慰めてくれたんだ」

「そういう事でしたか」

「ごめんね」

「謝る事ないだーね」

すかさず柳沢が言った。

「観月もうちで散々七瀬の話をしてるだーね」

「そうそう。観月なんか毎日七海の話してるよ。小さい頃は天使みたいに可愛かったとか」

「よく迷子になってその度に観月が見つけてたとかな」

「一緒に寝た時に手を繋いで寝たとか、小さくて可愛かったとか」

「はじめちゃん……ちょっと向こうでお話しようか」

「ま、待って下さい、ボクはただ、」

「ちょっと行って来るね、幸村くん」




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