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「タカさん!」

鋭く呼びかけた不二くんが、しなやかな動きで横に飛び退く。
すると、彼の後ろに構えていた河村くんのラケットが見事にその中心でボールを捕らえた。

ドゴオォッ!という、およそテニスの効果音とは思えない攻撃的な音と共に、ボールが相手コートに打ち込まれる。
一瞬コートに突き刺さったように見えたボールは、次の瞬間にはもうコートの外へと飛び去ってしまっていた。

凄まじい勢いのままフェンスに食い込んでギュンギュン回転しているボールを見た不二くんが「ナイス、タカさん」と微笑み、それに答えた河村くんが「イエス!ふじこちゃーん!!」と叫ぶ。

音高く手と手を打ち合わせた二人を見て、茄子色のユニフォームを着た比嘉中の木手くんが「またパワーアップしましたね」と手塚くんに話しかけていた。
全国大会で対戦した者同士とは言え、彼らの間にギスギスした雰囲気はない。
あの比嘉中の部員までもが何だか打ち解けた感じで他校のテニス部員達と話している。
やはりU‐17で同じチームメイトとして共に切磋琢磨し戦った経験は彼らの関係に大きく影響を与えたようだ。
余談だが、木手くんを見ると焼き茄子とチョココロネが食べたくなる。

勝利をおさめて試合を終えた不二くん達に、私はタオルとドリンクを持って駆け寄った。

「お疲れ様でした」

「有難う、七海ちゃん」

「あ、有難う、七瀬さん」

不二くんはにっこり微笑んで、そして、ラケットを離した途端一転してシャイな性格に戻ってしまった河村くんは申し訳なさそうにタオルを受け取る。

「スコア見る?」

「他の試合のも載ってるんだよね?うん、見てみたいな」

「はい、どうぞ」

首にタオルをかけ、片手にドリンクボトルを持った不二くんの前に私はスコアノートを広げてみせた。

「へえ…やっぱり立海と氷帝は強いね。殆ど勝ってる。青学は…まだボク達だけか」

「うん、おめでとう不二くん」

「有難う」

まあ、うちはまだ手塚がいるからね、と悔しがる様子もなく不二くんは笑って言った。

「じゃあ、また後でね」

「え、もう行っちゃうの?」

「お仕事中ですから」

「まだいいじゃない」

「だめだめ、サボってたら怒られちゃうよ」

「大丈夫、ボクが守ってあげるよ。マネージャーにも休憩は必要でしょ?」

「だめだめ、サボってたら怒られちゃうよ」
本気か冗談か分からない事を言って引き留めてくる不二くんに手を振り、私は次のコートへ向かった。



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