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合同練習と言ってもマネージャーの仕事内容自体はあまり変わりはない。私は試合を終えたり待機している部員達の間を回って、タオルやドリンクを配ったり、スコアノートをチェックして貰ったりしていた。
地味だが必要な仕事だ。

「七海」

「あ、幸村くん」

そうしてコートとコートの間を往復している途中、肩にジャージを羽織った幸村くんに呼びとめられた。

「お疲れ様。頑張ってるね」

「幸村くんこそ。皆もすごく頑張ってるよね」

「ああ、いつもより気合いが入ってるみたいだ。いい刺激になっているのかもしれないね」

コートを見据える彼の横顔をそっと眺める。
教室などで見るふんわりした穏やかさはなく、今の彼はテニスをする時の『神の子 幸村精市』の顔に近い。
これがコートに入れば更に気迫が増して、並みの神経の持ち主ならば耐えきれずに逃げ出したくなるほどのプレッシャーを感じさせるのだ。
カッコいいなあと思う半面、自分とは別の世界の人のようでちょっと近寄り難く感じてしまう一因でもあった。

私は幸村くんからはマネージャーとしてもクラスメイトとしても信頼して貰えているらしく、親しく話す機会も多い。
一緒に出掛けたこともある。
でもそれだけだ。立海の皆は幸村くんと私はいい感じの仲になっていると誤解しているようだけど、決して彼にとって特別な存在というわけではない。
私もそんな分不相応な望みを抱いてはいない。



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