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うちの大学には『テニス部』と『テニスサークル』がある。
テニスを通して人との交流を楽しむのを目的としているサークルとは違い、部のほうはがっつり体育会系で、活動内容も本格的なものだった。
中学や高校からずっとテニスを続けている人達が多いのも、当然この部活のほうだ。

私はと言うと、先輩に無理矢理引っ張りこまれた形で一応テニスサークルに所属している。
テニスなんて学校の授業で軟式をちょこっとやった程度で、当然ながら完全な初心者だ。
見る人が見ればわかるものなのだろう。

その人も、合同練習でたまたまレクチャーを受けた時に、その事にすぐに気付いたようだった。

「テニスやった事ないんだね」と、見た目だけは優しげな笑顔でズバリと指摘された。

「サークルに入ったのはどうして?」

「…先輩に誘われて、」

「やっぱり。全然運動部って感じがしないからそうだと思った。ずっと帰宅部だったんじゃない?」

「そう、ですけど…」

失礼な人だなぁ。
本当のことだけど、こうもきっぱり断言されるとへこむ。

中性的な顔立ちだし、茶色の髪の毛なんて私よりサラサラだし、細いし、話し方も柔らかくて、優しそうに見えるけれど、間違いなく優しいだけの人じゃない。
何となく分かる。
馬鹿にされているわけではないと思うけど、なんというか、自分達とは別物だと考えているというか、とにかく分かるのだ。

そして、私がソレに気が付いた事に、彼も気が付いていた。
柔らかい笑みが苦笑へと変わったから。

「じゃあ、とりあえずやって見ようか。ノルマはきっちりこなして貰わないとね」

そして、私は自分の考えが正しかった事を思い知る。
優しそうなんてとんでもない。
鬼だった。


合同練習が終わり、
「不二くん優しかったでしょ?」とにこにこしながら聞いてきた先輩に、はたして私はどう見えたのだろう。
自分で言うのもなんだが、今にも死にそうな様子だったはずだ。

「めちゃくちゃしごかれましたよ!」

「へえ、そうなんだ?素質ありだと思われたんじゃない?」

「そういうんじゃないと思います。嫌味っていうか、物凄く絡まれてからかわれたし」

「ふーん」

先輩はいまいち納得いかない顔をしていたが、私はもう懲りごりだった。
とにかく、今度の合同練習の時には別の人と組ませて貰いたいという事だけはしっかりお願いしておいた。



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