大人になったら傑くんと結婚するんだろうなと漠然と考えていた。

今でこそそんなものは幼い子供の自分勝手な思い込みだったのだと自覚しているが、中学に上がるくらいまでは本当にそう思っていたのだ。
物心つく頃には既に、「他の人には見えないお化け」から私を守ってくれていた傑くん。
彼が怪我をすれば、私がそれを治してあげた。
私にとって彼が特別な存在であったように、彼にとっての私もまた特別な存在だったのだ。
ただの幼馴染みというには距離が近すぎた二人の関係だが、恋仲になりたいのかと問われれば首を傾げたことだろう。
その時の私はまだ幼過ぎたから。

思えば、それは淡雪にも似た、あまりにも儚い初恋だった。



「幼馴染み?」

信じられないといった風に五条くんが傑くんから私へと視線を移す。
彼は先ほど夜蛾先生に紹介されて知り合ったばかりの同級生だ。

「この弱っちいやつが?」

「私の幼馴染みを馬鹿にしないでくれるかな」

私を背に庇うように傑くんが前に進み出る。それを見た五条くんは挑発するような笑みを浮かべた。

「へえ、やんのか?上等だ。相手をしてやるよ。表に出ろ」

「いいとも。いつまで減らず口を叩いていられるか見物だな。その鼻っ柱へし折ってやる」

二人の間に火花が散って見えた。
呪力の高まりがオーラのように彼らの身体を取り巻いている。
教室から出ていく二人を尻目に、もう一人の同級生である家入さんは、我関せずといった感じであくびをしていた。

「私、苗字なまえ」

「家入硝子。よろしく」

「家入さん?」

「硝子でいいよ」

「硝子ちゃん。よろしくね」

高専の敷地内にけたたましくアラートが鳴り響く。
傑くんが出した呪霊に反応したのだとすぐにわかった。
ここからではよく見えないが、遠くから物凄い破壊音が断続的に聞こえてくる。どうやらかなり派手にやりあっているようだ。後で絶対怒られちゃうな、これは。
止めなかった私も同罪だ。私も一緒に謝ろう。
そう考えていると、雷が落ちたような凄まじい怒声が外から聞こえてきた。
夜蛾先生だ。

しばらくして戻ってきた二人の新品の制服はいい具合に汚れていて所々裂けていた。
勝負は引き分けだったようだ。
お互いに自分が勝つと思っていたらしく、二人とも納得がいかない様子だった。

「次こそ絶対勝つ」

「それはこっちの台詞だ」

そんな彼らが唯一無二の親友同士になるなんて、この時誰が想像出来ただろう。

男の子って不思議だ。


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