「なんでお前まで罰則受けてんだよ」

「だって、私のせいだから」

階段を掃き掃除しながら答えた私に、五条くんが舌打ちする。
あの後、傑くんと五条くんは罰として校舎裏の大階段の掃除を命じられたのだ。
二人が怪我をしたのは元はと言えば私のせいだから、私も夜蛾先生にそう申告して掃除をしているのだが、五条くんはそれが気に食わないらしい。

「いい子ちゃんぶってんなよ、優等生。あれは俺とあいつの喧嘩だろ」

「五条くんは優しいね。さっきも弱そうな私が任務で早死にしそうだから心配してくれたんだよね」

「はあ?全然違ぇーし!」

「あっ、ここ怪我してる」

「って、おい!」

さっき傑くんとやりあった時に出来たであろう傷を反転術式で治療すると、何か言いたげにしながらも五条くんは口を閉じた。
治療を終えた腕をそっと撫でる。
幸い、小さな傷だったから跡形もなく消えて良かった。

「……………………た」

「えっ、なあに?」

「だから、悪かったって!」

そう言うなり、五条くんは私から箒を奪い取り、猛烈な勢いで階段を掃き始めた。
ぽかんとする私の視界に、笑いを堪えている傑くんの姿が映る。

「なまえ、私も傷を治してもらっていいかな?」

「うん、もちろん」

傑くんの治療をしている間に、五条くんはかなり下のほうまで行ってしまった。
私と一緒について来た硝子ちゃんは、掃除に加わる気はないらしく、石段に座って五条くんのことを何故か呆れたような表情で眺めている。
何となくだけど、煙草が吸いたいんだろうなと察した。
傑くんも五条くんを見ている。

「悪いやつじゃないみたいだ。ただ、素直じゃないだけで」

「そうだね」

私は傑くんの言葉に頷いた。
五条くんは口は悪いけど根は優しい人なんだと思う。

「彼のこと、気に入った?」

「それは傑くんでしょう。楽しそうな顔してる」

「そうかな」

「そうだよ」

傑くんの治療を終えた私は、破れてしまった制服を困ったように見た。

「新しい制服を貰わないといけないね」

「そうだね。さすがに初日でこうなるとは思ってもみなかったよ」

「もう喧嘩しちゃダメだよ」

「それは彼次第だね」

「傑くんて、意外と負けず嫌いだよね」

「確かに」

傑くんが箒の柄で自分の肩をトントンと叩く。その顔には好戦的な微笑みが浮かんでいた。

「特に、彼にだけは負けたくないかな」

「おい!お前ら、サボってんなよ!」

「ごめん、いま行くね」

硝子ちゃんがお腹を抱えて笑っている。
私は急いで階段を降りて五条くんのところまで走って行った。


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