※夏油生存教師if


おはよう。ちゃんと起きられたかな。
まさかこんなタイミングで出張に行くはめになるとはね。
私に体よく任務を押し付けた悟には、後でしっかりお灸を据えておかないといけないな。

私の想いは昨日告げた通りだ。嘘偽りのない気持ちだよ。
君も同じ気持ちでいてくれるとわかって、とても嬉しいよ。ありがとう。

君にとっても、私にとっても、憂鬱な月曜日になりそうだけど、くれぐれも無理はしないように。
君は頑張り過ぎてしまうところがあるからね。傍で見ていられないから心配だよ。

帰ったら、思いきり甘やかしてあげよう。
可愛い君を抱き締めて、キスをして。
それから……そうだな、私と君が単なる教師と教え子の関係だけではないということを行動で証明してみせようか。

出来れば、次に逢う時は、夏油先生ではなく名前で呼んでくれると嬉しいのだけど。

お陰で君のもとに帰るのが楽しみになったよ。

悟には秘密だよ。勘づかれるとうるさいからね。

それじゃあ、また連絡するから。
いい子にして待っておいで。





蝉時雨に嫌でも夏らしさを感じさせられる連休明けの月曜日の夕暮れ時。五条先生が寮の部屋を訪ねて来た。
ちょっと話したいことがあるんだけどいい?と言った先生を室内に招き入れる。
ソファがないので、ベッドに腰掛けると先生が心配そうに尋ねてきた。

「毎日暑いけど大丈夫?バテてない?」

「実はちょっとキツいです」

「まだ身体が慣れてないからだね。こまめに水分とって熱中症にならないように気を付けて」

「はい」

何となく、教師らしい会話だなあと感心してしまった。軽薄でいい加減そうに見えるが、五条先生は生徒一人ひとりのことをよく見てくれている。

「でも、元気がないのは暑さのせいだけじゃないよね?傑がいないからでしょ」

図星だった。
夏油先生は今朝から出張に行ってしまっていて不在なのだ。
実は、夏油先生とは、昨日密かにお互いの気持ちを確かめあったばかりだった。その直後の出張だったので、寂しさもひとしおなのだが、どうしてそのことを五条先生が知っているのだろう。

「ここからが本題」

五条先生が指でアイマスクを引き下ろした。煌めく六眼があらわになる。
私はベッドに座っていて、五条先生はそのすぐ目の前。
本当に突然、この近さが危険なものに感じられて困惑する。五条先生なのに、怖い、だなんて。

「なまえの存在はいつも僕に元気をくれた」

五条先生が言った。大切なことを言い含めるように、そっと優しく。

「どんな時でも、なまえがいてくれたなら乗り越えられた。僕にはもうなまえが必要不可欠な存在なんだ」

五条先生の男の人らしいゴツゴツした大きな手が頬を包み込む。
先生は切ないような、懇願するような表情で私を見つめていた。こんな五条先生は見たことがない。そう思うと同時に頭の中で警鐘が鳴り始めていた。

「僕じゃダメ?もうほんの少しも入る隙はない?」

先生の桜色の唇が紡ぐ言葉を、信じられない思いで聞く。

「傑と別れろとは言わないよ。言えない。ただ、僕の気持ちも受け入れてほしい。傑にしたみたいに、僕を受け入れて」

「せん、せい……」

「寂しいなら僕がその胸の穴を埋めてあげる。傑がいない間だけでもいい。僕のものになって」

切々と訴えかけてくる五条先生に、私は


五条先生を受け入れる

私には夏油先生だけ



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