「私のなまえに手を出さないでくれないか、悟」

突然割って入った聞き慣れた声に身体がすぐに反応した。
バッと立ち上がり、ドアを閉めて両腕を広げた夏油先生に駆け寄る。
思いきり抱きついた私を揺るぎもせずに抱き止めた夏油先生は、優しく微笑んで私の頭を撫でてくれた。

「ただいま、なまえ」

「お帰りなさい、夏油先生」

「ん?」

笑顔で圧をかけられて、慌てて言い直す。

「す、傑さん」

「うん、ただいま」

ああ、夏油先生の匂いだ。どこか蠱惑的なそれを肺いっぱいに吸い込んでうっとりする。
私をぎゅうと抱き締めた夏油先生が五条先生を睨み付けた。

「どういうつもりだい、悟。私の留守を狙ってなまえに手を出そうとするなんて。返答次第ではただでは済まさないよ」

「お前、早すぎ。なんで帰って来ちゃうかな」

「嫌な予感がしてね。さっさと切り上げて帰って来たんだけど正解だったな」

「聞いての通りだよ。僕もなまえが好きだから、お前がいない隙に落とそうとして」

「失敗した、と」

夏油先生が嬉しそうに言うと、五条先生は「やな奴」と顔をしかめた。

「残念だったね。なまえは私のものだ。私だけのね」

「その余裕、いつまで続くかな?」

五条先生が歩いて来る。思わずびくっとなった私を夏油先生は優しく抱き締めてくれた。

「絶対諦めないから。覚悟しておきなよ、なまえ。必ず僕のものにしてみせるからさ」

五条先生はぽんぽんと優しく私の頭を軽く叩き、どこか寂しそうな微笑みを見せて部屋を出て行った。

「ありがとう。私を選んでくれて」

夏油先生が言った。

「そんな、当たり前です。私が好きなのは傑さんだけなんですから」

「うん、嬉しいよ。でも、君は優しいから、もしかしたら悟のことも受け入れてしまうんじゃないかと思ってしまったんだ」

「じゃあ……そんな風に不安にならなくなるくらい、私のことをちゃんと傑さんだけのものにして下さい」

「いいのかい?」

「傑さんに全部受け取ってほしいんです」

「じゃあ、遠慮なく」

悪戯っぽく笑った傑さんが私を軽々と抱き上げる。そのままベッドまで運ばれ、優しく降ろされたと思うと、傑さんが覆い被さってきた。

「約束したね。思いきり甘やかしてあげると」

降ってきたのは、言葉通りの優しいキス。
蕩けそうなそれに夢中になっていると、傑さんの手が身体に触れてきてドキッとした。

「怖がらないで。優しくするから」

甘い美声に囁かれて、自然と身体から力が抜けていく。

「傑さん、大好き」

「私も愛しているよ、なまえ」

この夜、私は身も心も傑さんのものになった。



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