「ちょ、ちょっと待って下さい!」 急いでキッチンの棚からクッキーの入った缶を取って来て赤屍さんに渡す。 これで悪戯は免れるはずだ。 「ありがとうございます。今度は私の番ですね」 「えっ」 「実はネズミーランドのチケットがありまして。これからご一緒して頂けませんか?美女と野獣の城、見に行きたがっていたでしょう」 「わあ、行きます!行きます!」 「では、支度して下さい。車を回して来ます」 「はぁい!」 あまりにも嬉しくて、相手が殺人鬼であることも忘れてしまった私は超特急で支度を済ませ、迎えに来た赤屍さんの車に乗り込んだ。 道路は空いていて、殆ど時間がかからずネズミーランドに到着した。 「これをどうぞ」 赤屍さんに渡されたミミーマウスのカチューシャを頭に着ける。 ネズミの丸い耳とリボンが付いたアレだ。 帽子を車に置いて来た赤屍さんも、自分の頭にミッチーマウスのカチューシャを着けている。 「さあ、行きましょう」 ゲートを抜け、お土産屋さんが並ぶアーケードを抜けたら、もうそこは夢の国だ。 目指すは、ニューファンタジーランドに出来た美女と野獣の城である。 「チケット取れましたよ」 「赤屍さん、凄い!凄い!」 入場してから抽選でしか取れない美女と野獣の城のアトラクションのチケットを取ってくれた赤屍さんに思わず抱きつく。 ぎゅうと抱き締められて我に返り慌てたが、赤屍さんはすぐに離してくれた。 「そんなに喜んで頂けて、私も嬉しいですよ」と笑って。 その優しい微笑みに、ちょっとだけドキッとした。 ニューファンタジーランドはやはりそれなりに混んではいたが、私達にはチケットがある。 ヒロインの住む村を模したエリアを見学しつつ抜けると、奥に美女と野獣の城が見えて来た。 「赤屍さん、早く早く!」 「はいはい」 赤屍さんの腕を引き、いざ城の中へ。 「凄い!映画で観た通りだあ!」 城の中は忠実に映画の世界が再現されていて、本当に物語の中に入り込んだような気がするほどだった。 順路に従い、列に並び、城の中を歩いていく。 「ここ、テレビで見ました!」 ヒロインと野獣の出会いを体験したら、いよいよライドに搭乗することになる。 赤屍さんとライドに乗り込む。 そこからは、もう興奮の連続だった。 あの有名なお茶会のシーン。 少しずつ仲を深めていくヒロインと野獣の姿が、場面ごとに現れる。 クライマックスのシーンでは思わず涙ぐんでしまったほど物語の世界に没入してしまった。 「うっ、うっ、ぐす……」 「よしよし、ほら、泣かないで」 ライドを降りた私に赤屍さんがハンカチを渡してくれる。 優しい。 彼が最強最悪の運び屋であることも忘れて絆されてしまいそうだ。 「ポップコーンを買ってあげますから、ね?」 「ありがとうございます!」 美女と野獣のステンドグラス風のポップコーン入れも一緒に買って貰い、私はご機嫌だった。 まさか、赤屍さんがミラコスタに部屋を予約してあり、すっかり夢見心地になった私を美味しく頂く心づもりであるとも知らずに。 |