と、その時。 突然炎が迸り、私と赤屍さんを引き離した。 「どうやら間に合ったようですね」 それは思いもよらない救世主だった。 「お待たせしてすみません。貴女を攫いに来ました」 「ジェイド先輩!?」 ある日、突然飛ばされた異世界。 あの歪んだ世界で過ごした日々が急激に甦る。 リーチ兄弟のヤバいほう。 ムシュー・計画犯。 色々な呼び名はあったけれど、とにかく関わってはいけない人物だと警戒していたのに、いつの間にかするりと心の中に入り込んでいたひと。 元の世界に戻されたのも突然のことで、別れの挨拶すら出来なかった。 そのジェイド先輩が、目の前に立っている。 「やっと貴女のいる世界に道を繋ぐ方法がわかったと思ったら、まさか、僕以外の男に攫われそうになっているとは。貴女はつくづく厄介事に縁のある人ですね」 「うう……ジェイド先輩だあ……!」 含みのある、エスプリの効いたこの物言い──間違いなくジェイド先輩だ。 ターコイズブルーの髪に、オリーブとゴールドのオッドアイは相変わらず美しく、私が知る頃より更に色気と風格を増したジェイド先輩は、赤屍蔵人に向かって油断なくマジカルペンを構えながら、片腕で私を引き寄せた。 しっかりと肩を抱かれ、私も先輩の細い腰に抱きつく。 「では、行きましょうか」 「えっ、あっ!?」 視界がぐるりと回る。 身体が浮いたような感覚がしたかと思ったら、次の瞬間にはジェイド先輩と一緒に鏡の中に吸い込まれていた。 「上手くいったようですね」 懐かしい声が聞こえて閉じていた目を開ける。 「アズール先輩!」 「なんですか、間抜けな顔をして」 「アズール先輩〜」 「冗談ですよ。久しぶりですね。無事戻って来られたようで何よりです」 戻って来られた? 私はアズール先輩に向けていた視線をジェイド先輩へと戻した。 「言ったでしょう。貴女を攫いに来たと」 ジェイド先輩は物凄くいい笑顔で私を抱きすくめた。 「貴女を愛しています。もう二度と離しませんよ……絶対に」 待って。 私、もしかして助かったわけじゃないんじゃない? これって、ただ違う人に攫われただけなのでは? ジェイド先輩にぎゅうぎゅうに抱き締められながらアズール先輩に視線で助けを求めたが、返ってきたのは呆れたような深いため息だけだった。 |