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「なまえさん、こっちです」

物影から手招く見知った人物を見つけて、慌てて駆け寄る。

「ジェイ……」

長くしなやかな人差し指を口元に立てて「静かに」と私を制したジェイドは、先に立って歩き出した。
その広い背中を追って歩いて行くと、オクタヴィネル寮近くの湖の畔に出た。
いきなり服を脱ぎ始めたジェイドにギョッとして背を向ける。
小さく笑う声とともに何かの小瓶を手の中に滑り込まされた。

「この薬を飲んで下さい。水中でも呼吸が出来る魔法薬です。水の中にまで追手が来るとは考え難い。陸よりもよほど安全ですよ」

「で、でも……」

「僕と一緒では不安ですか?」

「ううん、そんなことは」

私が躊躇している理由はそれではなかった。

「では、飲んで下さい」

「う、うん」

ジェイドはもう人魚の姿に戻っていた。
仕方なく小瓶の中身を一気に飲み干す。

「ねえ、ジェイド。あなた、鬼じゃなかっ──」

最後まで言い終えることは出来なかった。
私を背後から抱き締めた状態でジェイドが湖の中に飛び込んだからだ。

「気が付くのが少し遅すぎましたね」

ジェイドが笑い混じりに言って、私の身体を向かい合うように抱き締め直す。

「酷い!ジェイドの嘘つき!」

「おや?僕は一度も鬼ではないなどと言った覚えはありませんが?」

「酷い!酷い!ジェイドの嘘つき!」

大きく口を開けてギザギザの鋭い歯を見せつけながら、ジェイドは長い尾鰭を私の身体に巻き付けた。

「捕まえた」

「んんぅ!」

口の中の酸素さえ奪うように深く口付けられる。
絡み付く尾鰭と抱き締めてくる腕のせいで身動きすることもままならない。

深々と口付けられたまま、私の身体はジェイドと共にゆっくりと湖の底に向かって沈んでいった。


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