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週が明けて一気に季節が進んだ気がする。
厳しかった残暑もようやく終わりを迎え、暑さも一段落と言った感じだ。
夜になるともうすっかり秋の風で、どうかすると涼しいのを通り越して肌寒いほどだった。
そんなある朝のこと。


──いい匂いがする……

目を閉じていてもはっきりとわかる、食欲をそそる良い香り。
それに誘われるように急に空腹感を意識した。
両親と住んでいた頃なら母が作ってくれているのだと思ったところだが、生憎いまこの家には人間は私しかいない。

まさか、と思いつつキッチンに向かうと、そこには、見慣れない姿をした良く知っている男性が立ち働いていた。
私に気付いた彼がおたまで鍋をかき混ぜながらこちらに振り返る。

「おはようございます、なまえさん」

「おはよう……ジェイド、くん?」

「はい、僕ですよ」

そう言って笑う彼は、どこからどう見ても人間の男性にしか見えない。
綺麗に整った顔立ちはそのままに、すらりと長い手足に190cmはありそうな身長。
美しいオッドアイと翡翠色の髪が印象的な、抜けるような白い肌の美青年がそこにいた。

「どうして……」

「最後の人間化薬を使いました」

「えっ、使いきってたんじゃなかったの?」

「いざと言う時のために一つ残してあったんです。ここぞという時に使ってこその切り札ですから」

「なるほど……」

何だか力が抜けてしまった。
でも、そんな最後の切り札をいま使ってしまって良いのだろうか。

「その辺りのことも含めて説明しますので、先に顔を洗ってきて下さい。それから朝食にしましょう」



身支度を整えてダイニングキッチンに向かうと、既にテーブルの上に料理が並べられていた。
チーズとトマトとレタスとハムを挟んだパニーニに、クラムチャウダーとサラダ。
私の分と、ジェイドくんの分。

「すごい!美味しそう!ジェイドくん、料理出来たんだね」

「学園内にあるラウンジで働いていましたから、この程度ならお手の物ですよ」

洗い物を終えたジェイドくんが流れるような動作で椅子を引いてくれる。

「あ、ありがとう」

「どういたしまして。さあ、どうぞ召し上がれ」

「ありがとう、いただきます」

椅子に座った私は早速パニーニを口に運んだ。

「美味しい!」

「お口に合ったようで嬉しいですよ。では、僕も失礼していただきます」

自分も椅子に座ったジェイドくんがいただきますをして食べ始める。
さすが自分に必要な量がわかっているようで、私の分の倍近くある料理をぱくぱくと平らげていく。
私も自分の食事に集中することにした。

「実は、魔法薬を作ろうと思いまして」

食後の紅茶を淹れてくれながらジェイドくんが言った。
高く持ち上げたティーポットからカップに注ぐ姿が様になっている。
まるで良家の執事のようだ。

「作れるの?」

「材料の目星はつけてあります。当然、向こうと全く同じとはいきませんが、何とかなるでしょう」

ジェイドくんとはまだそれほど長い付き合いではないが、行き当たりばったりで行動するタイプではないことはわかる。
確信があるからこうして行動に出たのだろう。

「あ、じゃあ、この前買ったのって」

「ええ。魔法薬を作るための道具です」

ジェイドくんがタブレットを使って注文した品なら、既に届いている。
鍋とか試験管とか瓶といったものが幾つか。

「これから材料を取りに行って、戻って来たらすぐに調合を始めますので」

「そっか、わかった。何か手伝えることはある?」

「いえ、危ないので完成するまでは別の部屋で待っていて下さい」

こうしてジェイドくんは魔法薬の材料を調達しに行き、戻って来たその足で部屋に籠って調合に取りかかった。


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