さっき強引に食べさせられたマシュマロが真奈の口の中で儚く蕩けて消えていく。
その優しい甘さは綱吉やランボ達と食べたマシュマロの味に似ていた。
その事が懐かしい我が家での日々を思い出させて、真奈の胸を締め付ける。

(ツナ……みんな……)

一人で大半を食べ、空になったマシュマロの袋をポイとゴミ箱に放った白蘭は、窓辺に立って外を眺めていた。
色素の薄い髪と肌の色のせいもあるのかもしれないが、まるで陽光がそのまま彼の身体を素通りしていくような錯覚を覚える。

不意に、開いたままの入口の脇の壁を誰かがノックした。
しかし白蘭はまったく興味を示さず、窓の外へと顔を向けたままだ。
真奈が入口の方を見ると、そこには童顔といっても良いくらいの顔立ちの黒髪の青年が立っていた。

彼と目が合った途端、あっと声が漏れそうになり、慌てて堪える。
それくらい衝撃的だった。
そして、嬉しかったのだ。

「白蘭様、報告します」

必死に動揺を抑える真奈をよそに、いたって冷静にファイルを開いた青年が白蘭の背に向かって告げる。

「第14トゥリパーノ隊の報告によりますと、キャバッローネは思いのほか手強いようです。膠着状態に入った模様です」

青年の報告を背で聞いた白蘭は「やっぱりね…」と呟いた。
すべて予想通りとでも言いたげな、余裕に満ちた口調だった。

「また、メローネ基地より、入江正一氏が日本に到着したとの連絡が入りました」

「お、早いね、正チャン」

ようやく白蘭が振り返る。その目が真っ直ぐ青年を見据えた。

「見ない顔だね」

「はっ…自分はこのたびホワイトスペルの第6ムゲット隊に配属された、レオナルド・リッピ、F級です」

青年はビシッと気をつけの姿勢を取った。
声にも緊張が表れている。

「あーそー、ヨロシクね。様はつけなくていいよ、暑苦しいから」

フレンドリーともユルいともとれる上司の言葉に戸惑いを隠せないでいる青年に、白蘭はにこやかな笑顔で、「うちはやることさえやってくれれば幸せになれるの」と続けた。

「早速ことづけ頼まれてくれる?レオ君」

「!は…はい!」

「日本に行った正チャンにさあ、花を届けてほしいんだ」

「花…でありますか?」

「うん、白いアネモネを山のようにね」

白いアネモネの花言葉は『期待』。
怪訝そうな顔をしつつも承諾したレオナルドに満足そうに頷く白蘭を見ながら、真奈は白蘭にこれほど期待を寄せられている入江正一とは何者だろうかと考えていた。



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