「ザンザス、何か食べる?」

「いらねえ。ここにいろ」

──上から目線ではあるけれど、物凄く甘い感じの事を言われた気がする。
真奈はちょっとドキドキしながら素直に彼の傍らの椅子に腰を下ろした。

「酒は飲めるのか?」

ウイスキーを注ぎながらザンザスが横目で真奈を見る。
うん、と頷くと、彼はそのグラスを彼女のほうへ押しやった。

「いいの?これザンザスのでしょう」

「グラスならまだある」

途端、骸と雲雀が据わった目をザンザスに向ける。

「じゃあそっちを真奈さんに渡せばいいじゃないですか」

「間接キスに持ち込もうなんて案外せこい手を使うね」

「真奈さん、危ないですからその野獣から離れなさい」

骸にひょいと持ち上げられたかと思うと、真奈は彼の膝の上に乗せられた。
酒気に混ざって上品ないい匂いがする。
たしなみ程度につけられた香りはセンスがよく、どこか官能的な感じのするものだった。

「酔っ払いは放っておきなさい」

「うん、骸も相当酔ってるよね」

「クハッ!僕が?僕のどこが酔って見えると言うんです?」

「ぜんぶ」

「その子を離しなよ変態」

「おっと」

びゅう、と空気を切って飛んできたトンファーを、骸は腕に真奈を抱きしめたまま優雅な動きで避けた。

「危ないじゃないですか。当たったらどうするんです」

「当たるように投げたんだよ」

「真奈さんにですよ」

「当てるわけないだろ」

二人が言い合いを始めた隙に、真奈はそっと骸から離れた。



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